六弦的魔力後

2002年12月16日 本当にたどり着けるのか?


この幻を追い続け27年。

「黒い炎はさらに激しく」

後編 -----------(まずは、前編をお読み下さい!)

オークションでD-45を落札した翌朝「掲示倉庫」をチェックした倉庫 番(くらこ つがい)は、そこに「匿名希望」の人物が書き込んでいるのを発見した。明らかにオークションを観察していた人物であり、オークションに参加したのが私であると知っている人物だった。前夜の「Martin D-45」入札を戦った戦友ではなさそうだった。その書き込みは厚意を装った悪意に満ちていた。

「このHPの関係者が落札されたと思いますので、御注意申し上げます。あのオークションは詐欺です。お金を絶対に振り込まないで下さい。小物を仕入れるための資金にされます。お金をあげるのなら別ですが、もし返金されたとしても数カ月先になります。詳しくは2●ゃんねるに書き込まれています!」

倉庫 番は「匿名書き込み」は信用しない方針だった。今までも何度か書き込まれていた中傷文は即刻削除していた。一見親切な忠告に見える今回の書き込みは「2●ゃんねる」をその情報源としている。「2●ゃんねる」が信用できない噂話に溢れている事実は、今ではまっとうな大人なら誰でも知っているはずだった。知人数名が「2●ゃんねる」の情報被害にあっていた。倉庫 番は書き込みを無視する事にした。悪質な妨害行為であると信じ、その書き込みを即刻削除した・・・。

♪〜〜〜風の中のす〜ばる〜〜〜(まだ飽きないのかよ〜!)〜〜〜♪

私家版

プロジェクト
HEX(ヘックス)
「D-45を追え!」

その日、悪質な書き込みは無視したはずの倉庫 番の心を揺さぶった。嫌な気分がその朝襲い掛かっていた。出品者への信用度はオークションに掲げられた過去の取り引きの「評価」で判断する。出品者には3000件以上の「とても良い」との評価が掲示されていた。そして出品者の登録名を見なおした時、倉庫 番は2年前の事実を思い出した!

2000年11月に倉庫 番はこの出品者と取り引きをしていた事実があったのだ。この出品者から、オークションでGIBSONのギターを買った経緯があったのだ。すぐに「私は前回取り引きした経験がある」とメールを出品者に送った。その夜、出品者からメールが届いた。「2日〜3日後に発送できます!前回の取り引きは覚えていますよ!」と書かれていた。これで、お互いの意志は通じている事が確認できたのだった。倉庫 番は「Martin D-45」が届くまで静かに待つ事にした。

11月27日。振り込み後5日目の夜が来た。これは出品者との納品約束日の夜だった。そしてその夜、ギターは届かなかった・・・。不安が過った。あの匿名の書き込みは本当だったのでは・・・。だが、いったん「2●ゃんねる」を否定し、出品者を信じたのである。最後まで信じ抜くべきではないのか?何か事情があるはずだ!だが・・・気になる・・・倉庫 番はその日「走れメロス!」状態に陥ってしまうのであった。

翌朝、出品者からメールが届いた。

「御連絡が遅くなってすみません!知人からの依託出品だったので当方への商品到着が遅れてしまいました。明後日夜には必ず発送致しますので、今しばらくお待ち下さいませ。商品にはなんの問題もございません!」

そうか・・・数日遅れるだけか・・・「入手を27年も待っていたのだ。今さら数日遅れたところでどうってこたあない!」と倉庫 番は小さく呟いた。やはり「走れメロス!」は正しいかったのだ。と自分に言い聞かせた。

28日朝のメールから計算すると、D-45は12月3日までに配達されるはずだった。それを信じて待った。だが12月3日夜まで待っても、それは届く事がなかった。失望した。やはりあの警告は正しかったのか?再び苦悩の「走れメロス」状態が襲って来た。

12月4日朝、再び出品者からメールが届いた。発送が遅れている事情の説明と陳謝のメールだった。出品者の手元に商品の到着が更に遅れていると書いてあった。5日には必ず入手し発送すると明記してあった。倉庫 番はここまでは信じ待つ事にした。これが最後のチャンスだと信じた。7日には着くはずだった。

だが・・・7日朝、D-45は届かず、再び出品者からのメールが届けられた。

「おはようございます。高級ギターですので宅急便扱いでは出来ませんでした。手渡しで中継するよう依頼しました。現在は贈答シーズンで、異常に荷物があるようで、その荷物の下になっても上に置かれてもよくありませんので 、ヤマト便扱いをしました。3日くらいかかりますが よろしくお願いします。 代替のないD-45ですので」

嬉しい配送への心遣いだが・・・さらに到着の時間が延期されたのだった。眠れぬ夜が始まった・・・。

倉庫 番はD-45を受け取った。届けられた梱包があまりに小さいので驚いた。さっそく、中を傷つけないようにカッターで慎重に梱包を切り開いた。出て来たギターケースもD-45のサイズではなかった。見るからに小さかった。不信感でざわめいた。思いきってギターケースを開けると、そこにあったのは「Martin D-45」とは似てもにつかないギターだった。

ボディーサイズは小さく3/4程しかなく、しかも全体がKOA材だった。ボディーシェイプも初めて見る非対称形をしていた。「これは一体なんだ?」倉庫 番は呟いた・・・。サウンドホールを見ると、そこには「D-45」の文字が見えた。確かに D-45と名乗ってはいるが、ヘッドには「HAWAII」とメーカー名が書かれていた。明らかにMartinではない。大きな絶望感が倉庫 番を襲って来た・・・ところで眼が覚めた。皮肉な夢だった。



12月9日の朝、起き上がって窓外を観ると一面真っ白く雪に覆われていた。

その日、関東地方の高速道路は交通規制や通行止めが相次ぎ、首都圏の交通は麻痺していた。いつものように自家用車で駅へ向う事は出来なかった。この雪の影響下でヤマト便は果たして予定通りに配送出来るのか・・・不安がつのった。日本の流通業界の名誉に掛けて「ヤマト便配送担当柳谷氏」は持てる配送能力をすべて発揮し、倉庫 番の元へたどり着けるのか?その日一日中雪は降り続いていた。

通常、ヤマト便は国内であれば翌日配達が基本となっている。岡山から川崎までなら一晩で充分な距離だ。今まではそうだったはずだ。安心して待っていた必要充分の3日間だった。そして、9日の夜までにD-45が届く事はなかった。深夜になり相手に「3日経ったが届かない。発送伝票ナンバーを知らせるように」 とのメールを送った。

12月10日昼過ぎ「すみません。詳細を調査して、明日までに御連絡します」とのメールが届いた。倉庫 番が知りたかったのは「伝票ナンバー」だったが、その質問への回答はなかった。またしても到着が延期されるのか・・・夢への道のりは果てしなく遠く、永遠に続くように思われた。手が届きそうで届かない・・・D-45は幻だったのか・・・。

ふと思い付く事があった。娘はヤマト便でしばらく働いていた。配送担当者も懇意にしている。営業所に問い合わせれば何か分かるかもしれない!地区担当営業所宛に質問メールを送った。1時間後、電話連絡が来た。「お問い合わせの荷物はたぶんギターですよね?」いきなりそう切り出された。倉庫 番が頻繁にギターの配送、受領を繰り返しているのは、この営業所で知れ渡っていたのだった。しかし「まだ営業所では預かっていませんね〜!配送担当も知らないと言ってますし・・・」 との返事だった・・・。「私はいいかげんに眼を醒ますべきなのか?」倉庫 番は独り呟いた・・・。「走れメロス」は「狼少年」だったのか・・・。

反面、自虐的な感覚が生まれて来ているのも否めなかった。この泥沼をとことん突き詰めて楽しみたくなったのだ。こうなればD-45が届こうがとどくまいがどちらでもよかった。目的は「決着」する事のみ。相手と戦い続け、どう着地するのか?この泥沼が倉庫 番の中で、マゾヒスティックな楽しみへと昇華されて行くのを感じ始めていた。「災い転じてさらなる災いとなす!」D-45はその為の単なるツールとしての意味しか持たなくなっていた・・・。倉庫 番の胸の奥でザワザワと黒い炎が燃え広がり始めていた。昂る感情を押し殺し、最後まで見届ける決意をした。

12月11日午後。出品者から「また梱包のやり直しになってしまった。こうなったらそちらへ直接手渡しで届ける」という意味合いのメールが届いた。岡山から川崎まで届けに来ると言うのか?疑問は膨らんだ。いったんヤマト便に預けたはずではなかったのか?それが今も出品者の手元にあるのはどういうことだ?倉庫 番の中で新たな疑惑が広がり始めた。

そのメールには携帯電話の番号が記されていた。夕方になりいくつかの疑問をぶつける為に掛けてみる事にした。コール10回。相手は出なかった。本当にこの番号は合っているのか?コール15回・・・。相手はやっと出た。

「●●さんですか?倉庫と申します。
  D-45の件で連絡しました。現状はどうなっているんですか?」

「すみません。もう直接お届けにうかがいます。
  先ほど留守番電話に伝言しておいたのですが、
    そちらの近くに買い付けに行く用がありますので、
    手渡しでお届け致します」


「それはいつですか?時間をハッキリさせてもらえませんか?」


「12月16日月曜日の午後14時過ぎに『南武線くじ駅』に行きますので、
  夜にでも都合の良いお時間を作っていただければ、御自宅にお届け致します」

この相手に自宅まで押し掛けられるのは嫌だった。

「12月16日月曜日午後19時過ぎに溝の口駅で受け取りましょう!」

それが倉庫 番の精一杯の譲歩だった。

♪〜〜〜エンディング・テーマ〜〜〜♪

関西訛りの電話のその声は、年老いて怪しく聴こえた。倉庫 番が予想していた声とは全く違う質のトーンだった。この声を信じるのか?信じるべきか?この取り引きそのものをキャンセルする道もまだ残されている。だが・・・信じられなくても良いと思い始めていた。「毒を食らわば皿まで」徹底的に付き合ってみる気になった。「これはネタになります。モメればモメるほど良いネタに成長します。最後まで見届ける勇気を持つべきです!」自分に向いそう呟く倉庫 番の中で黒い炎はさらに激しく揺らめき始め、あえて危険を呼び込む心理状態へと堕ちて行った・・・。

♪〜〜〜予告・テーマ〜〜〜♪

崩れ去る信頼感、出品者の底知れぬ闇。続行するD-45を巡る戦い。約束の日12月16日19時。街にはホワイトクリスマスが流れていた。はたして出品者と顔を会わせられるのか?手渡しプロジェクトは実現するのか?さらに時間延長決定!次回「D-45を追え!延長編」を御期待下さい!




本日の結論
いくら何でもなあ・・・何とかしろよ〜〜〜!!!

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