推定的保険屋

2010年06月19日 保険調査はなかなか面白い!


広川純著「一応の推定」


「なかなか興味深い事だらけで」

読み始めて数ページでそのまま置き去りにしていた本がありました。特に面白くないとかいうことではなくて、なんとなく放置してしまったという状況です。数か月放り出していた気がします。しかし・・・梅雨の季節になって「耕晴雨読」の言葉通り、置き去りにしていた本を手に取りたくなりました。読み出せば面白くて一気読み!

広川純著「一応の推定」2006年6月発行。この本は、第13回松本清張賞受賞作です。

「一応の推定」は生命保険会社から死因の調査を依頼された「保険調査員」が主人公です。探偵に近い行動をする人物ですね。この本は「損害保険」に加入していた男が駅のホームから転落して轢死した事件が「自殺」であるとの「推定」に対して、裏付け調査をするものです。「損害保険」では自殺者には保険金が支払われません。「保険調査員」はそれを立証しようと調査するのです。では「一応の推定」とはどのような意味でしょうか?

「一応の推定」理論
自殺そのものを直接かつ完全に立証することが困難な場合、典型的な自殺の状況が立証されればそれで足りること、すなわち、その証明が「一応確からしい」という程度のものでは足りないが、自殺でないとする全ての疑いを排除するものである必要はなく、明白で納得の得られるものであればそれで足りる。


つまり保険会社は、死亡した保険加入者が「自殺」か「事故死」か明確な証拠がない場合に「こりゃあどう考えても自殺だろう!」と誰もが思える状況証拠を集めれば、保険金の支払いを拒否できるわけです。ちなみに「保険調査員」への保険会社の調査費用支払は「無責」(保険会社が保険金を支払わなくて良い場合)の立証が認められた場合、保険金額の15%程度です。ということは1億円の「損害保険」を掛けて死亡した人物が「自殺」であったと証明した場合1,500万円が調査費用として支払われるわけです。それを調査会社と調査員が折半します。こりゃあ調査員としても躍起になって「無責」を勝ち取ろうと頑張りますよね!

まわりに誰もいない状況で、夜の駅のホームから転落して死んだ人物が果たして「自殺」だったのか?それとも「事故死」だったのか?僅かな手がかりからスタートして、徐々にその死に至る全貌が明らかになっていくのですが・・・。

さて、では「無責」として保険会社から通告された場合、遺族はどうするのでしょうか?納得出来なければ裁判を起こすことになります。しかしそこで辛いのは裁判で「自殺ではない!」と証明しなければならないのは遺族側です。よ〜く考えるとこれはとても難しい証明ですよね。すでに「こりゃあどう考えても自殺だろう!」と思える調査結果が提出されているのですから。

「一応の推定」の内容についてこれ以上は書けませんが、判明し始める事実関係とその裏で動いていた人々との関係、それらが明確になるに連れ、読む手が止まらず一気に最終ページにたどり着きました。この本の最後は「調査報告書」という形式で終わります。

保険調査員がどのように依頼を受け、どのように調査し、そしてどのような「調査報告書」を書き上げたかという一連の動きを知ることが出来る本です。もちろん小説ですからフィクションではあるのですが、なかなか興味深い事だらけで、世の中の仕組みの一面を知ることが出来ますね。久々にスルリと2時間ほどで読み終えた本でした!


本日の結論
そろそろ保険に入り直そうっと!

「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



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