読了的定理話


2009年07月06日 久々の感動的読み物!



「巻末にしたところが秀逸です」

6月の頭にふと大量に読書したくなって、ブックオフに出撃しました。そのときに15冊の本を購入しましたが、その中にいつも買っているミステリー系とは全く毛色が違うジャンルの本を入れておきました。「フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、アンドリュー・ワイルズが証明するまで!サイモン・シン著(青木薫 訳)」です。

私は数学に興味があった訳ではないのですが・・・。1995年に「フェルマーの最終定理」が証明されたと世界中で話題になりました。その事実は知っていたのですが、それでは具体的にどのような証明がなされたのか?は知りませんでした。かといって、数式を並べられて「このように証明された!」と言われても 、私は数学者ではないので理解できるはずもありません。

ウイルズが「フェルマーの最終定理」を証明し、それが数学者たちによって確認された後に、イギリスのBBCがそのドキュメンタリー番組を制作したようです。それが大評判となり、日本でもNHKがオンエアしたようですが、残念ながら私はそれを見ていませんでした。その番組はさらにサイモン・シンによって出版物となりました。

1999年になり、日本では青木薫さんがその翻訳本を出版。この本の基本姿勢は、ほとんど数式を使わずに「どのようにフェルマーの定理が証明されたのか?を素人に分かりやすく伝える!」です。ブックオフでこの本の腰巻きを見た瞬間に「私にも理解できるだろうか?」と強い興味がわいたのです。1,200円でした。ブックオフにしては高い本ですが、まあ挫折してもその時は私の知力が足りなかったのだとあきらめることにして、迷わず購入しました。

先週「フェルマーの最終定理」をようやく手に取り、バッグに入れて会社帰りの電車の中で読み始めました。驚きです!数学の本がこれほど面白いとは思ってもいませんでした。まるで面白いミステリーを読んでいるかのような感覚です。帰りの電車の中だけで読んでいたので読み終わるのに4日間かかりましたが、終盤の証明が成立する部分ではうっすらと涙ぐんでいる自分に気づきました。それほど面白いんです!

この本の入り口は「ピュタゴラスの定理」からです。これは皆さんご存知の通り、直角三角形における定理ですね。その証明方法の解説からスタートします。この辺りは懐かしい中学数学レベルの知識で理解できますね。


で、「ピュタゴラスの定理」が証明されたのなら、これはどうなのだろうか?との疑問があります。2乗が3乗にかわると成立するのでしょうか?そして4乗5乗・・・と増えていったら?


その答えを出したのが、17世紀のフェルマーでした。以下のように定理を書き残したのです。「3以上の自然数nに対して、この方程式を満たすような自然数x,y,zはない」ということですね。しかし、これには証明が添付されていませんでした。つまり結論だけを提示して、その結論へ至る道筋をフェルマーはいっさい残さなかったのです。「私は真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことが出来ない」というのがフェルマーの言い分です。フェルマーはこの件以外にも証明を残さなかったケースがいくつもあったようです。これが350年前の出来事ですね。ですが・・・証明がなければただの推論でしかありません。


それ以来、多くの数学者はこの難問に取り組みました。そして挫折していきました。やがて近年になりこの証明に大金の賞金がかかり、多くの素人数学好きも参戦してこの難問を証明すべく数学界は大騒ぎになったようです。フェルマーが定理を残してから350年間その謎は謎のまま閉ざされていました。この証明は出来ないと断言する数学者もいたようですが、近年の数学の進歩によって証明をするための入り口がいくつか開いてきたようです。

アンドリュー・ワイルズを証明の入り口へ誘ったのは日本人の数学者達が立てた数学的予想の存在でした。それまでに多くの数学者がアプローチしていた方法とは全く逆のアプローチを始めたのです。そこにあったのは「谷山=志村予想」と呼ばれるもの。このあたりの理論の事実関係はこの本を読んで楽しんでいただきましょう!数学歴史ロマンとでも呼びましょうかね!


アンドリュー・ワイルズ

やがて1994年アンドリュー・ワイルズが7年間研究を続けてついに証明を発表しました。数学界は大騒ぎです!350年間の謎が解けるのですから。世界中で大騒ぎでしたが直後、証明のほんの一部にミスがあることが判明します。そのミスはすぐに修正されると思われていましたが、意外に困難な作業でした。これによって、やはり「フェルマーの最終定理は証明できない」との噂が飛び交いました。

ところがアンドリュー・ワイルズは、それに怯むことなく1年間そのミスの修正に没頭しました。アンドリュー・ワイルズは修正の経緯の中であきらめかけていた時、新しい閃きをし「何故今までこれに気づかなかったのだ!」と一気に証明への詰めを行ったのです。そして、ついに1995年ウイルズは証明を発表し、その証明はレフェリーとなる数学者達に認証されました。つまり、350年間なぞに包まれていた「フェルマーの最終定理」は、1995年ついに証明されたのです。

この証明は単に「フェルマーの最終定理が証明された」という事実で終わるだけでなく、これによって新しい数学の理論が進化したという功績があったのです。このあたりの話しも実際に読んでいただけるとより面白く興味が湧く部分であります。

で、この本はアンドリュー・ワイルズが証明に至る道筋だけでなく、そこにまつわる様々な数学上の歴史的事実と、数学界のエピソード、逸話、数学的クイズなどの面白い話しがてんこ盛りで飽きることなく一気に最終ページまでたどり着けるのです。さらに私が感じたのは翻訳者の存在です。かなり深い数学的知識がありつつ、数式も使わずに分かりやすい日本語に翻訳するのは至難の業です。そこを見事にやり遂げています。

もう一つ面白いのは、巻末に「補遺」として、本文に書き込まなかった10の証明や解説が加えられていることです。これは本文の中に書いてあっても良かったのでしょうが、読むスピードを落とさないためにあえて巻末にしたところが秀逸です。この「補遺」だけでもかなり面白く読めます。この本は10年前に出版されていますが、全く古さを感じさせません。知的興奮が得られる本ですね。でも定価は2,300円なのですよ!さてあなたはどこで手に入れて読みます?もしあなたがブックオフの105円コーナーで見つけたらラッキーですから即買いしてください!


本日の結論
とりあえずブックオフに走ってみる?それとも図書館?

「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



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