読了的火粉貢
2004年06月03日 ざわめく皮膚感覚が・・・!
 



「それは目次だ」

久々に登録会員00017曽我部様から貢ぎ物として本が届けられた。雫井修介著「火の粉」2003年幻冬舎刊がそれだ。この作者の本は以前「虚貌」を読んだことがあるが、内容はまったく記憶に残っていない。最近は読み終わるとすぐに忘れてしまう傾向があり、脳の劣化をしみじみ感じてしまう・・・。次々にミステリー本を読み続けているのでいちいち覚えていられないのが実状か?

貢ぎ物としてミステリー本が届けられたと言うことは「この本に関して何かひとこと書け!」と詰め寄られていると解釈すべきだろうな。そこで、6月1日朝の出勤時から読みはじめた。ざわざわとした皮膚感をもたらすストーリーだ。不安感を掻き立てる展開が続く。6月3日朝は30分程早く出社したのでそのままデスクで始業前までに一気読了した・・・。

人生で出くわす多くの「怪しい人々」は本当に「怪しい」のだろうか?人は常に「推理」「推測」する。推理を職業とするプロ達はデータを分析し、事実のウラを取り緻密に組み上げて「判断」する。だが素人はすぐに「ぜ〜ったい怪しい!」とか「絶対あの人よ!」とか数少ない情報量の中で判断しがちだ。そこに「予断」や「冤罪」が生まれる素地がある。私も現実の状況で数多くの「ミスディレクション」に惑わされ、判断を迷ったことは数知れない。最近は多方面の情報を収集し「思い込み」を極力排除するように心掛けているのだが・・・。

それではいつものように腰巻きの惹句を御紹介しよう。

雫井修介著「火の粉」幻冬舎刊

有罪か?無罪か?手に汗握る犯罪小説の最高傑作!
冬幻舎創立九周年記念特別作品


自白した被告人に
無罪判決を下した元裁判官へ
今、「火の粉」が降りかかる。

あの男は、殺人鬼
だったのか?


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「お隣さん、
 本当にいい人ね」


元裁判官で、現在は大学教授を務める梶尾勲の隣家に、
かつて無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。
愛嬌のある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・
武内は溢れんばかりの善意で梶尾家の人々の心を掴んで行く。

「なんか、いい人すぎない?」

刑事は推理のプロである。プロであるが故に推理や調査に自信があり、わずかな誤差が「冤罪」を生む。裁判官もプロであるが故に調査の結果導きだされた論理的判断で「冤罪」を生む。だがその時点では、彼等は「冤罪」だとは思っていない。明らかに「ホシを挙げた!」と信じ、適切な「判決」を下したと信じている。

この小説は、そんな「推理プロ」と「推理素人」が混在する家庭を舞台に展開する。プロの判断が正しいのか?素人の判断が正しいのか?読者は目の前に投げ出された状況証拠から「隣人」は「善人」なのか?それとも「犯人」なのか?と、激しく心理状態を揺さぶられることになる。

舞台となる「梶尾家」は元裁判官の父親とその妻、司法試験を目指している息子とその妻、その子供。さらに寝たきりのばあちゃん。で構成されている。この中で「推理のプロ」は父親である。息子は「推理のプロ予備軍」だ。他はみんなド素人である。父親はかつて裁判で殺人犯と目されていた 1人の男を「無罪」とした。武内真伍がそれだ。「無罪」の理由は、一家皆殺しの殺人現場にいた武内もバットで背中をめった打ちにされた被害者であったからだ。狂言ではあり得ないほどの怪我の状況であると判断された。

ある日「梶尾家」の隣家に引っ越してきた住人が挨拶にやってきた。偶然にもそれは武内真伍だった。元裁判官と元被告人。武内は絶望的な状況の中で「無罪」を導き出してくれた「元裁判官 梶尾」とその家族に対し、善意を尽くした交流を深めようと動きだした。「善意の濃度」という言葉があるとすれば、それは余りにも濃すぎた・・・。

「善意」は本当に善意なのか?その裏には何もないのか?それとも単なる「過剰な善人」なのか?いくつもの推理がそれぞれの視点で錯綜する。そして・・・武内の善意は「善意の範疇」を越しはじめた・・・。やがて生まれた「家族間の推理合戦」誰の主張が正しいのか?思考が揺らぐ・・・。揺らぎ続けたまま怒濤のラストシーンへと向かって行く・・・。

と、こんなところが「火の粉」の概要だ。私はかなり面白く読んだなあ!だが、決して痛快なストーリー展開ではない。 最初にも書いたのだが、読む人によっては「なんとなくざわざわと居心地の悪い皮膚感覚」を生じさせる本でもあるだろう。日常的な家庭的苛立ちが、そこここにちりばめられている。ミステリーと言うより、ホラーに近い感がある。前半は、まずその不快感をたっぷりお楽しみいただきたい!

さて、ここで私なりに歪んだ視線で何か一つは見つけておかないと「独断倉庫」らしくない!それを書いてみよう。 実は、この本を読みはじめた瞬間に気付いた違和感があったのだ。それは目次だ。列記してみよう。

1 判決 9 不審 17 性癖
2 再会 10 墓地 18 襲撃
3 隣人 11 亀裂 19 トランク
4 視線 12 排除 20 阻止
5 遺言 13 妄想 21 別荘
6 過労 14 参戦 22 工作
7 助力 15 対決 23 異常
8 不帰 16 偽証 24 判決

1と24が同じ「判決」になっている!ここになんらかの仕掛けがあるのだろうか?作者は、意図的に漢字二文字の目次を並べているが、19だけは「トランク」とカタカナ表記だ。気にならないか?ここで私は推理を始めた!「トランク」の章は漢字二文字にどうして出来なかったのだろうか?それとも何か別の意図があるのだろうか?まず「トランク」に対応する漢字表記はあるのだろうか?辞書を引いたが見つけられなかった。例えあったとしても無理矢理感は否めないだろうな・・・。

そもそも、整合性を優先するとすれば、別の漢字二文字で表現できる単語にしても良かったのではないだろうか?てなことを考えつつ、読み終えてみれば、確かに「トランク」と表記するのが適切なブロックだった。それ以外には考えられなかった・・・。ううむ・・・作者もさんざん悩んだ末に「トランク」としたのだろうなあ・・・。なんてな妙な推理も働く「火の粉」であった!ちなみに、1と24が同じ「判決」なのは自分で読んで納得していただきたい!

登録会員00017曽我部様!御提供ありがとうございました〜〜〜!!!



本日の結論
読み進みながらの自分の心理の揺らぎ具合が面白かったなあ〜!
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