六弦的整備憶
2004年05月23日 おおっと!古い記憶が蘇る!
 

このようにパーツを取り外し・・・。


「必須であると私は考えるのだよ!」

古い辛い記憶が突然呼び覚まされることがある。今日はそんな話。

5月21日、登録会員00079 大原様から「長年眠っていたギターをメンテナンスして欲しい!」と持ち込まれた。YAMAHA のレスポールタイプだ。20年程前のブツのようだ。このギターは友人の形見だった。そうか・・・あれはもう16年前の出来事になったのか・・・。

そのギターの元の持ち主「T氏」は仕事仲間であり、大原様の遊び仲間でもあった。仕事のクライアントでもあった。そんなT氏が結婚する事になった。仲間達は喜び、披露宴に出かけた。もちろん私も出かけた。披露宴は大いに盛り上がり、二次会の店でみんな最後まで飲んだくれていた。そして、新婚カップルは翌日、新婚旅行にヨーロッパへ旅立って行った。

それから数日後、突然悲惨なニュースが飛び込んできた。T氏が新婚旅行先で事故にあったというのだ。行方不明だという。詳細を聴くと・・・旅行中にレンタカーを運転してポルトガルからスペインに向かう途中、増水した河にかかった橋を渡ろうとしたところ、橋の中程まで来た時、急に水かさが増して橋の上まで増水!車が水没しエンジンストップ。あわてて奥さんを車から出し、橋のたもとに向かって急がせた。その後をT氏も追ったのだが・・・。

奥さんが無事に橋のたもとに辿り着いた時、T氏はさらに増水した河の濁流に飲み込まれて、橋から転落・・・そのまま流れの彼方に消えて行ったのだった。嗚呼・・・・・・。やがて水が退き、村人総出でT氏の捜索が始まった。10日後、かなり下流で泥の中からT氏が発見されたと聞いた。そんな悲しい出来事が起こった後に、T氏と仲の良かった登録会員00079 大原様へYAMAHAのギターが形見として渡されたのであった。

その過去の状況を知っていただけに「そろそろちゃんとメンテナンスして、形見として大切に弾きたい」と申し出されると、私も燃えるのであった。どっちかというと、私の方から「メンテナンスさせろ!」と迫ったのが実情なのだが・・・。

まずは、受け取ったホコリだらけのソフトケースを開いてみた。ギターも手垢とホコリまみれではあるが、金属パーツに錆はほとんどでていない。本体の傷も目立つものは少ない。汚れの下にあるTOPの塗装面 はかなりきれいだ。バックに少し傷はあるがバックル傷もほとんど無い。ライブで使われた形跡は少ないな。このギターは長い間押し入れの片隅で眠り続けていたようだな。

ネックを見ると、やや「逆反り状態」だった。軽い順反りなら簡単なのだが、弦をチューニングした状態での逆反りは厄介だ。取りあえずチューニングしてみた。長年に渡り弦を緩めてあったので、やはり少し逆反りが発生していた。弦を緩めっぱなしだとこんな結果 が待っているのだ。しばらく使わないからと云って、弦を外しっぱなしや緩めっぱなしにするのはよくないな!

過去にロッドを絞めた経緯があれば、それを戻すだけでネックを順反りへと調整できるが、素人が自主的にロッドを絞めるケースは余り無い。期待しないことにして、綿密に調整する必要があるなあ。

指板にカビが発生していた。丹念にクリーニングしよう!もちろんフレットは表面 が全部酸化していた。これもポリシュする必要がある。幸いフレットの減りに目立つものはないので、摺り合わせする必要は無い。ポリシュだけできれいに仕上げられるだろう。

チューナーの裏蓋が2つ欠落していた。少しグリースを注入してこれはこのままにしておくか?

その前に、電装系が問題なく作動するかどうかを確認しておこう。状況次第では電装系にも手を入れなくてはならなくなる。アンプに繋いでチェックしたところ、問題なく音が出た。ジャックに少々ガリがでたが、接点復活材で対処。ボリューム、トーンともガリがない!意外だがラッキーである!それでは、本格的に作業開始! 作業行程は以下の通りだ!

1
まず古く錆びた弦を外し、ブリッジ、テールピース、ピックガードを外した。(この画像では、すでに塗装面 の掃除が済んでいるのできれいに見えるが、全面に渡り、かなり手垢や汚れがこびりついていた



ブリッジを分解し、パーツをバラバラにした。それぞれを金属クリーナーで磨く。
しつこい汚れがこびり着いていた。丹念に擦り除去。
だが、組み立ての際にスプリングが上手くハマらず、しばらく格闘した!
同じくテールピースもピカピカに磨き上げた。

2
ピックアップカバーについた汚れがあったので、金属クリーナーで除去。
エスカッションも汚れ果てていたので、コンパウンドで汚れを除去。
ゴシゴシと結構指先が痛くなる作業なのだ。これまたピカピカに磨き上げた。
3
ピックアップのポールピースが変にデコボコしていたので、ノーマルな位 置に調整。
ついでに、ピックアップの高さもほぼの位置に調整。
4
指板にマスキングテープをきっちり張り付け、ポリッシュ剤の汚れを防止してから、フレットのクリーニングを始めた。この作業をやるか、やらないかで、指のスベリが大きく違ってくる。ていねいに時間をかけて行った。最後はポリッシュ剤をきれいに拭き取り完了。フレットに滑らかさが戻った。ピッカピカに仕上がった。見た目にも気持ちよい!
5
マスキングテープを剥がすと、ついでに指板表面 のゴミや汚れ、カビも除去できる。カビの多かった部分だけさらに、クリーナーで除去した。最後に、シリコン系の潤滑剤を塗布して滑りを良くした。これで指板は見た目にもしっとりとした弾きやすさを感じさせる仕上がりとなった。
6
ナットの溝を掃除する。ここにもシリコン系の潤滑剤を塗布。 これでチューニングの際に狂いが少なくなる。
7
ボディー全体をコンパウンドで丹念に磨く。こびりついた汚れが落ち、かなり輝きが戻ってきた。見た目にも高級感が漂い始めた。さらに、Gibsonn製のポリッシュ剤で仕上げ。TOPにちゃんと映り込みが出るようになった!
8
最初に外した部品を取り付け、弦を張る。ダダリオ09〜042だ。チューニングを行い、しばし置く。弦とネックがある程度安定してから最終的なネックのチェックを行なうのだ。再度チューニングしてから極わずかな順反りになるよう調整するのだが、今回のネック状態は意外にもトラスロッドに手を加える必要は無かった。ラッキー!

9
一晩寝かせて、ジャックの中に接点復活剤を注入しクリーニングした。ネックと弦が安定したところでチューニング。ネックの反りを再度チェックしたが問題なし!次に試奏を行なった。なめらかな弾き心地。これも問題ない!かなりマトモな音がする。
10
いよいよ、最後の仕上げだ。
弦高を決定し、12フレットのハーモニクスを慎重に調整。弾いてみると、フロントピックアップとリアピックアップのバランスが悪いと感じた。ピックアップの高さを調整し、バランスを整えた。足掛け2日間に渡り行なったメンテナンス作業はこれで総べて完了!擦り過ぎて指先が痛いぞ〜〜〜!!!

さてと、ここまでダラダラと手順を書いてきたのはなんでだと思う?

上に書いてきたことを自分でやれば、あなたの愛器はとても弾きやすく蘇るのだ!演奏好きな方は、ついついギターを弾きっぱなしにしているのが現状だろう?最悪の状況になって初めて楽器屋に持ち込んで調整してもらうのが典型的なパターンだろうな。その前に、自分で調整していればいつでも安心して気持ちよく使えると云うものだ。特別 な工具も必要無いしね。

特にネックのトラスロッドの微調整はシーズンごとに行った方がよいし、フレットや指板の自力クリーニングは必須であると私は考えるのだよ!てなことで登録会員00079 大原様!次回からは御自分でこの通 りに、T氏の冥福を祈りながら丹念にメンテナンスをやられるが良い!さすればT氏も浮かばれるであろうぞ!


ところで今気付いたのだが、登録会員00079 大原様は、今年の「お年玉逆貢ぎ物大会」で「ギターアンプ」をゲットされた方である。さらに、昨年私が廃物ケーブル利用で作った「ギター用シールドコード」もお渡ししてあるのだ。そこに今回のギターのメンテナンスが終われば、なんと「ロックミュージシャン一式」をもらいものだけで揃えたと言うわけだ!

私が作った「ギター用シールドコード」も形見として大事に使い続けていただきたい!(おいおい!もう形見かよ〜!)



本日の結論
登録会員00079 大原様にとって、今後はこのギターがT氏の位牌の代わりだ!

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