「100万円を現金で支払わなければならない」 これまたBOOK OFFで100円コーナーを覗いている時に見つけた本である。大沢在昌の著書は今までにも数多く読んできたが、どれも私好みの本であった。私が読み終えた本を毎回送っている実母も好きになった作家のようだ。「ザ・ジョーカー」は、かなりハードボイルドだ。連作短編が6本で構成されている。
主人公はジョーカーと名乗る男。職業は簡単に書けば「何でも屋」だ。だが、一般的に考えられるような「何でも屋」とは違い、厄介な裏の仕事ばかり引き受けるのである。お得意のヤクザ、悪徳警官、怪し気な連中も毎回出てくる。ジョーカーはクールで「プロ」に徹している。では、裏家業のプロとは何か?その営業ルールはかなり非情だが、それゆえに自分を守ることにつながる。
その非情さが心地よく、読み進むスピード感が嬉しい。ジョーカーは六本木のとあるバーが営業拠点だ。じっと客が来るのを待っている。バーのオーナー兼ウエイターの沢井が窓口となり、カウンターの中から客を値踏みする。その仕事を受けるべきか、受けざるべきか?その様子を、ジョーカーは離れた席から観察している。依頼者達はジョーカーの顔をまだ知らないのだ。
それでは腰巻きの惹句を御紹介しよう!
大沢在昌 「ザ・ジョーカー」
「最悪のトラブル」を、たったひとりで
引き受ける最後のプロフェッショナル。
大反響!!
緊急増刷
着手金は100万。
仕事は「殺し」以外のすべて。
東京の闇と、そこで生きる男のプライドを、痛快に描いた新シリーズ!
講談社刊 定価:本体1700円(税別)
「殺しは
仕事にしたことがない。
殺しをしなかった
とはいわないが」
男は
六本木の裏通りのバーで
客を待つ。
ジョーカーは
つながらない数と数の
あいだを
埋めるのに使う
最後の切り札。
使われた後は用はない。
そこに捨て置かれるか、
別の人間が使う・・・。
この小説のなかでのポイントは「殺しは仕事にしたことがない。殺しをしなかったとはいわないが」のフレーズである。この微妙な言い回しが、小説全体の雰囲気を適格に表している気がする。
さて、私が気になったのは「着手金」である。
ジョーカーに依頼をするためには、依頼内容を話す前にまず100万円を現金で支払わなければならない。払わなければ、話も聞いてもらえない。この金額を支払える依頼者であれば、中途半端な仕事の内容では無いだろう。難易度も高いはずだ。しかもこれはあくまでも着手金である。弁護士の着手金と同じで、仕事が成功すればそれなりに「成功報酬」も必要になる。必然的にトータルでかなり高額にならざるを得ない。そうなると、真っ当な仕事の依頼では無いことが容易に想像できる。規模の小さな、殺しを引き受けないゴルゴ13って感じか?(どんなんだよ?)
ジョーカーがゴルゴ13と違うのは、銀行振り込みはいっさい受け付けないことだ。すべて現金のみの取り引きとなる。銀行口座から探られて個人情報が流出するのを防いでいるのだ。運転免許証さえ偽名で造られたものを使用しているジョーカーなのだ。つまり、この小説ではジョーカーの実像は表現されているが本名が出てくることはない。細かな素性はいっさい出てこない。ジョーカーはあくまでもジョーカーのままなのだ。このあたりのクールさもひと味違った感じがする。この小説では、ハードボイルドでお馴染みの銃撃や刃物による戦いも多く出てくるが、私は淡々とした精神状態を保ちつつ読み続けた。あまり「熱き血潮」がみなぎることがなかった。主人公と共に、読者も常にクールでいるのを要求しているような感じがするなあ。
仕事を依頼するためにジョーカーを探している人々がバーに辿り着いた時、その時点ですでに「厄介事」が舞い込んだことになる。ノーマルな仕事であればジョーカーを探す必要も無いからだ。そんなやっかいな仕事が「6本」待っている本である。じっくりと一気にお読みいただきたい!
この小説での銃器に関する扱いへの提言!
ジョーカーは、一つの仕事が終われば拳銃を処分してしまい、同じものを二度と使わない。これがプロのルールだ!としている。確かに、線条痕による銃器の特定がされれば「事件」への関与が明確にされてしまう。だが、毎回拳銃を処分し、次を調達するコストを考えると100万円の着手金は安くないのか?拳銃の流通価格は知らない私だが、そう思えてならない。
分解出来にくいリボルバーなら拳銃処分も妥当だと考えるのだが、オートマチックの場合、分解し銃身だけを交換することが容易な銃がある。その銃の銃身のみの供給がまとまった数確保できれば、仕事の度に銃身だけ取り替えれば済むことになる。これで線条痕の問題はなくなり、コストも大幅に削減できることとなる。そうなるとその銃身は「使い捨て銃身 撃てるんです!」てな商品名になるかも知れないなあ(ならない!ならない!)
ちなみに、製造ナンバーは削り取れば良いのだから問題ないね。
本日の結論
ジョーカーは共産圏製の拳銃は使いたがらない。分かる気がする。
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