毎朝的観察者
2004年03月13日 あの人は誰!
 

これは1997年に大フィーバーした時の証拠画像!


「遊び人か?ヒモか?」

私が高校生のころ、週刊マンガ雑誌に「釘師さぶやん」というタイトルの大ヒットマンガがあった。少年マガジン連載だったような気がする。「釘師」とはパチンコ台の釘をハンマーでたたいて調整し「出玉」の調整をする職業である。パチンコ台の釘は曲げられた微妙な角度で巧に玉を誘導し「入賞率」を変化させる。

わざとらしく大きく曲げられた釘は、お客にすぐ気付かれてしまうので、絶妙な釘の調整加減が釘師の腕となる。釘師はパチンコ店の経営に多大な影響をおよぼす職業である。腕ひとつで店の収益が変化するのだ。店主が自ら釘師をかねていることもあるが、フリーの釘師も存在するのだ。「釘師さぶやん」はそんなフリーの釘師の修行を描いたマンガだった。

「釘師さぶやん」の中では「秘技」が度々登場した。当時のパチンコ台は、現在の電動打ち出しと違い、1発毎に右手でハンドルを弾いて打っていた。その為、打ち方によっては自分なりのワザを生み出すことができたのだ。微妙な指先の加減で金属の玉をコントロールするのは容易ではないが、ある一つの技だけは誰でも可能だった。その技の名は・・・

「チューリップ二連流し」

この技の理屈を説明しよう。通称チューリップと呼ばれる役モノがつけられた入賞穴に玉 が入ると、チューリップが開き、次の玉の入賞確率が非常に高くなり、その方面に打てば数発後には確実に入賞する。この現象はすでに皆様御存じの通 り。だが、チューリップは次の玉が入賞すると閉じてしまう仕組みである。これで元通 りになる。

ところが、チューリップが開いている時に、たまたま左右から、あるいは並んで飛んできた玉が2個入賞したらどうなるのか?当然チューリップは一瞬閉じてすぐにまた開くのである。つまり、いったん開くと偶数個が入賞する限りいつまでもチューリップは開きっぱなしで入賞確率が高いまま維持できるのだ!

「チューリップ二連流し」はその機能に目をつけた技なのだ。パチンコ台の打ち出す部分に玉を2個入れてチューリップを狙うのである。玉は2個一緒に弾かれるので、同じルートを描いて飛んで行きやすい。上手く行けばチューリップに2個飛び込むはずである。理屈ではそうなるのだが、実践ではどうなのだろうか?

だが、当時現役高校生だった私としては、パチンコ屋に出入りすることは「不良」の所行であり、品行方正を誇る身には「チューリップ二連流し」を実践確認する術は持っていなかった。やがて高校を卒業した直後、1971年の今頃、初めてパチンコ屋に乗り込んだ。もちろん「チューリップ二連流し」は成立するのか?を確認するためである!研究熱心な私であった事を彷佛とさせる当時の状況である。

実際にパチンコ台に向かって弾いてみると、マンガのように「チューリップ二連流し」は簡単に成立しないことが分かった。まれに成功することもあったが、2個弾いて2個同時に入る確率は非常に低いのだ。初心者ゆえの技術不足もあったのだが・・・。

しか〜し・・・そのうちに別のテクニックを見つけだした。「チューリップ四連流し」である!「チューリップ二連流し」に比べ倍の玉数なのだ。これで入賞確率は倍になるのか?早速やってみた。ううむ・・・ううむ・・・そこには手強い壁が待っていた。パチンコ台の発射レバーにつけられたバネの強度である。

バネはパチンコ玉2個までなら発射できたのだが、その以上になると、重すぎて玉が飛び出さずに発射装置の中に戻ってきてしまうのだ。バネの強さは自力で調整は出来ない。もっとも通常弾く時はバネが強いと指が疲労してしまうので、それ以上バネを強くされても困ってしまうのだ。

そこで新たに生み出した技が「チューリップ四連流し 中指アシスト」だった。親指でレバーを下げながら、中指で反対側からテンションをかけてみたのだ。そして、親指がレバーから離れた瞬間、中指でも弾きパチンコ玉4個は勢い良く飛び出した!大成功である!ただ、発射する玉数が多いので失って行くスピードも倍になる。だが・・・これが上手く行ったのである!2個入賞する確率が非常に上がったのだ。時には4個全部入ることもあった。4個入賞すれば60個出てくる。つまり一瞬にして56個の利益が生まれたのであった!常勝の予感・・・。

そしてその春に上京し、貧しい暮らしが始まった。親の仕送りは限られていたし、たまにやったアルバイトもたいした金額にはならなかった。コーヒーを飲みたい、下着を買わなくちゃ、などと生活物資を手に入れる為に、私は頻繁にパチンコ屋へ通った。その時、脳裏に蘇るのは「釘師さぶやん」で学んだ「釘」の蘊蓄!と「チューリップ四連流し 中指アシスト」だった。

かくして私は連戦連勝をくり返し、かなりの生活必需品をパチンコ屋で調達したのであった。当時まだたばこを吸っていたころは、タバコ屋でたばこを買ったことはほとんどなかった。たばこ1箱分のお金があれば1カートンがパチンコ屋で容易に手に入ったからだ。

やがて時代と法律のはざまでパチンコ台は変化し「自動」になったことで技が使えなくなった。途端に私にはつまらない遊びに見え始めた。自然にパチンコ屋から足が遠のいて行った。たばこを吸わなくなったこともその原因かも知れない・・・。ちなみに、当時パチンコ屋で手に入れた「ドライバーセット」は今も大切に使い続けている。

上にかかげた大フィーバーの画像は、1997年に「現在のパチンコ台の進化はどうなっているのだろうか?」と視察に出かけた時の写真である。台の前に座った直後にフィーバーが始まり、わけが分からないうちに777が連続して揃い、ジャラジャラといつまでも出続けたのであった! この日うまれて初めて景品交換所で現金と交換した。1,000円の出費が25,000円になって戻ってきたが、これじゃあハマってしまう人が出るのも無理はないよな・・・。



さて、ここからが本日のメインの話だ。

私は現在、毎朝妻の運転する車で最寄りの駅に向かっている。そして、出発後5分程で大きなパチンコ屋「吉兆」の前を通過する。チェーン店のようだ。9時開店の店である。私が通過するのは、毎朝ほぼ8時50分ころだ。すでに店の前には常連が10名程並んでいる朝の風景だ。

パチンコ屋「吉兆」を通り過ぎて100mで大きな交差点になっている。たいていはその交差点で信号に引っ掛かり30秒程待たされることになる。ある日、私は車の左前方の歩道を観ていた。その時妻はこう言った。

「あのおじさん昨日も歩いていたわよね?」

見るとジャージの上下にサンダル履きで、たばこをくゆらせながら歩いているおっさんがいた。スポーツ刈りの頭で眼鏡をかけた40才前後に見える。裏社会の人物に見えないこともないイカツイ体格。明らかにパチンコ「吉兆」に向かって歩いていた。そして、翌日朝・・・またしても同じ場所で同じおっさんに出くわしたのであった。ほほう!これは面白い!と、それからずっと観察を続けていると、ほぼ毎日同じ時間同じ場所で当家の車とそのおっさんはすれ違っているのであった!すでに気付いてから数カ月に及んでいる。

すれ違う位置は毎日微妙に違うのだが、その誤差は最大でパチンコ屋から交差点までのわずか100mの間なのだ。こうなると、妻との「おっさん観察」は日常と化す。毎日見つけては車の中で「今日もいたぞ〜!」と大笑いをする夫婦である。だが・・・この観察は一方的なものだ。相手のおっさんはまだ私達に気付いていない。車で一瞬すれ違うだけだから、この先も私達の観察がばれることはまず無いだろう。

だが、気になるのは「おっさんの職業」である。毎朝規則正しく8時50分頃にパチンコ「吉兆」へ通う日々は何を意味しているのだろうか?開店を待っている姿を見ると、おっさんが店員でないことは確かだ。フリーの釘師でもないだろうな。単なる客だろうが、それにしても毎朝出勤と言うのは理解しがたいおっさんである。

スナック経営者で夜働いている可能性はどうだろうか?そうだと毎朝のパチンコ屋通いは起きるのが辛いか・・・。どう観てもリストラされて暇になったサラリーマンには見えないしなあ。遊び人か?ヒモか?なんてな妄想をかき立てつつ日々すれ違うのであった。

そして今朝の出来事。

いつものおっさんの姿が見えないのである!なんとなく変な感覚がした。朝顔を会わしたのに「おはようございます」と相手に挨拶されないような感覚。車はパチンコ屋を過ぎ、交差点に向かって行く。渋滞で車は交差点のかなり手前で信号待ちとなった。「いつものおじさんがいないわね〜!」と妻が寂しげに言った。だが、その瞬間!いつもなら歩道を歩いてくるおじさんが今日に限って、全く予想していなかったビルの隙間から歩道に飛び出してきたのである!当方の車のすぐ目の前である!ジャストタイミングなのである!おおお〜〜〜!!!いつものおっさんだ〜〜〜!!!車の中が一気に笑い声で満ちた!

期待を裏切らないおっさんとの毎朝の遭遇は、はたして何時まで続くのだろうかね〜!



本日の結論
だから何者なんだよ、このおっさんは〜!

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