読了的邪魔本

2002年11月30日 第2位の位置付けはどうなのだ?



「達成感や征服感がある小説ではない」

「日本で2番目に旨いラーメン屋!」なんてな看板を見た事がある。「2番目」は微妙な表現だ。1番目より控えめに表現していると思わせておきながら「実力ではうちの方が上だよ!」と裏で舌を出している感じが否めない。ちょっと卑怯な表示ではないのか?と感じさせてしまう悲しさがあるなあ・・・(そうか〜?)

今回の本は堂々と「2位」だと唱っていた。

ミステリー本を立て続けに読んでいると、犯罪に対して鈍感になって来るのだろうか?より派手な、より残虐な犯人像でないと満足できなくなって来るような気がする。さらに、警察組織の構造的欠陥や腐敗が描かれれば、そこで活躍する「律儀な刑事」の苦悩が大きく浮き彫りにされてくる。現場では走り回っている人々はどこでも大変なのだ!

警察とて、一般企業と大差ない上下関係で翻弄されて行く人々がいる。むしろ一般企業より「隠蔽」しなくてはならない事情が多すぎるのだろうなあ。小説内で表現される「警察機構」は必ずしも現実的ではないが、その表現にはミステリーもののパターンがある。「組織として真っ当ではない」毎回そんな感じがする。フィクションとは言え、警察官の方々からしてみれば「まただよ・・・」と呟きたくなるだろうなあ・・・。警察官にミステリー好きは多いのだろうか?

前回読んだ「魔笛」は残虐な中に「宗教的見地」で組み立てられた犯人像があった。ねじ伏せられるような納得感があった。論理的に納得されたのではないような気がしたのだ。今回読み終えた本は「日常の風景」が崩壊して行く様を、横から客観的に眺めているような感があった。決して登場人物に感情移入しない読み方とでも言うのだろうか。犯罪そのものは「小さな弱い」ものだが、それを取り巻く環境が、現実の世界との距離感を限り無く近く感じさせる恐怖感があった。

奥田英朗著「邪魔」講談社刊 2001年4月初版。腰巻きの惹句を書き出してみよう。

このミステリーがすごい!
第2位 2001年度国内版・宝島社

本の雑誌2001年度ベスト10
第5位
ミステリチャンネルBestBooks2001年間ベストテン

狂おしいまでの孤独と自由。
奥田英朗は、やっぱり凄い。

現実逃避の執念が暴走するクライム・ノベルの傑作!

ついてねえな。
・・・・・ついてねえどころじゃねえだろう。
---渡辺裕輔・17歳・高校生

夫など帰ってこなければいい。
いっそ事故で死んでくれてもいい。
そう考える自分を、少しも悪いとは思わない。
---及川恭子・34歳・主婦


自分の感情がわからない。
怒りでも、悲しみでもない。それはもしかしたら、
生きていることの違和感かもしれない。
---九野 薫・36歳・刑事

ヤクザ、企業、警察、それぞれの関与と癒着構造。やくざは企業と手も組み、警察OBは企業に天下る。結果的に警察がヤクザをサポートし、ヤクザが警察を援助する。そんな裏構造が出来上がってしまう恐怖。「揉み消される事実」そして個人の裁量で「隠蔽」されて行く事実。そんな救いようのない状態の中で、少年と主婦と刑事は翻弄されて行く。

三者の日常が絡み合い始めたとき、崩壊は始まる。不良少年とパートタイム主婦、精神的に不安定な刑事。彼等の接点はどこにあるのか?読み終えた時に、達成感や征服感がある小説ではない。読了とともに読者もまた日常へ戻って行く。そんな感じのミステリーだ。

この小説には、大きな謎や驚くべきトリックが仕掛けられているわけでもない。ただ淡々と生きて行くだけの日常に、ちょっとした「邪魔」が入る事で、大きく狂って行く「壊れやすい生活」があることを身近に感じさせる小説だ。

ほんの些細なきっかけで「幸せな生活」が消えて行くことがあるのだろうか?ある日、自分の生活に「邪魔」が入る事はあるのだろうか?これだけ生きているので、私はすでに何度か経験しているが、いまのところまだ「崩壊」するには至っていない。踏ん張って生きている。

だが、次にそれがいつやって来るかは予測できない。自分の知らない場所で企てられた謀略に、知らずしらずにハメられてしまうかもしれない。「正論」だと信じついて行った結果「宗教」へ巻き込まれて行く人々も多い。目の前の「正論」は果たして本当に「正論」なのか?そんな自分にも起こるかもしれない「ありえる恐怖」が迫る小説なのだ。

奥田英朗著「邪魔」を読み終えた時、ある事実に気付いた。全体的に暴力や犯罪事件に溢れているがミステリーにありがちな「あること」は決して起こらないのだ。これが、より日常性を感じさせるポイントかもしれないなあ。「あること」とは何か?読んでみれば判るぞ!

そして・・・

実は昨日、私自身がふとした事から「犯罪者」として摘発されかねない事態が起こった。それは昼休みに、隣のダイエーのお惣菜売り場に弁当を買いに行った時の出来事だ。弁当はあまり食いたくなかったので、軽く「一口サンドイッチ」を1パック、ピックアップした。さらに、一番奥の棚で「野菜ジュース」をピックアップした。

数分後、私は会社の自分の席に辿り着いた。その時!ポケットの小銭がジャラと鳴った。ん?んんん???やっと気がついたのである! 私は小銭を持って出かけたのに、なぜ、ポケットに小銭が残っているのだ?うおおお〜〜〜!!!やっちまった〜〜〜!!!マズイ!まずいぞ〜〜〜!!!

私は商品を手にした後、ボ〜ッと考え事をしていたようだ。省エネの為、いつもあえてレジ袋に入れてもらわないので、商品をむき出しで持っている事に違和感がなかったのだ。レジで会計を済ませないでそのまま店舗から出て来てしまったと気付いた!

冷や汗ドロリである!すぐさますっ飛んでレジまで戻り、事情を話して会計をしてもらった。レジのパートと思しき婦人は「わざわざ出直していただきありがとうございます!」とニコヤカに頭を下げられた。ううう・・・私のミスなのに・・・。スンマセン!

今回はレジ横に「万引き追跡班」が居なかったので、追求される事もなく大事に至らなかったが、これがもしそのような方々に発見、追跡され「ちょっとよろしいですか?今お持ちの品はレジを通されませんでしたよね・・・こちらまで来ていただけますか?」とガードマン控え室まで引っぱって行かれる可能性はあったのだ!

身元引き受け人を誰か指定して、迎えに来てもらわなければならないところだった! そうなると部下に頼むしかないのか?ううう・・・格好わるすぎるぞ〜!人生にはほんの些細な事で、あっさり転落してしまう暗い穴がそこここに待ち受けているのを感じてしまった午後だった。たった309円(消費税込み)で人生を破滅させかねない午後だった・・・。




本日の結論
刑事 九野 薫は義母の家で、あの「ちらし寿司」はどうやって作ったのだろうか?

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