読了的爆弾魔

2002年11月26日 ある意味で「発火点」と同じか?



「あの状態で本当にたどり着けるだろうか?」

もう8年前になるだろうか。「地下鉄サリン事件」を引き起こした某宗教団体の富士山麓本拠地が、一斉捜査を受け壊滅させられていった事実がある。その後、その宗教団体は名前を変え生き残りを図った。そして今も宗教活動は続けられている。今回読み終えたのは、そんな現実の事件をもとに紡ぎ出された小説である。リアルな周辺情報がまだ私の中に残っているだけに、小説に妙なリアリティーを感じたなあ。

野沢尚著「魔笛」講談社刊 1700円がその小説である。2日間の会社往復の電車の中できっちり読み終える事が出来た。理想的読書スピードである。この本はミステリーだが、小説全体にある仕掛けがしてある。読み出せばすぐに分かるようになっているのだが、あえてそれは書かないでおこう。だが、その仕掛けのために一部表現内容が破綻しかけるスレスレの部分もあった。それ程難しい仕掛けである。そのために、この小説のイントロには「辞」とする一文が書かれているが、これは作家の巧みな伏線である!

野沢尚著「魔笛」の仕掛けは、先日御紹介した真保裕一著「発火点」のソレに近い感じがする。「発火点」の場合は最終ページで仕掛けが分かる書き方だったのだが・・・。「魔笛」ではまっ先に、それが読むための心構えとしてバラされているのだ!

それでは、いつものように腰巻きの惹句を書き出してみようかね。

白昼の渋谷。
無差別爆弾テロ。
犯人は女だった。
「狂気」を極限まで描き尽くす、作家・野沢尚の到達点。渾身の書き下ろし。

公安と新興宗教のはざまで生み落とされ、首都を暴走する未曾有の恐怖。
警察をあざ笑うかのようにテロを仕掛け続ける女が求めるのは、罪か。救いか

悪魔的な頭脳で日本を恐怖に陥れた彼女を、若き刑事と、その獄中の妻が追う。


この本の著者「野沢尚」の本に初めてぶつかったのはBOOK OFFで見つけた「破線のマリス」だった。第43回江戸川乱歩賞作である。その時の評価は「そこそこ」であった。すでに1998年10月25日に「破線のマリス」に関する紹介を書た経緯があるなあ。

さ〜て「魔笛」について詳しく書こうとすると「宗教問題」と「公安問題」について書き連ねなければならない。しか〜し、それについて私はあまり語りたくないのだ。面倒と言うか、危険と言うか、まあそれは「魔笛」を読んでいただければ分かるので、今回はまったく違う方面について書く事にしよう!

「魔笛」の中で重要なメイン登場人物は「爆弾魔の女 照屋礼子」と、それを追う「刑事 鳴尾良輔」さらに刑事を助ける「獄中の妻 籐子」である。私が面白いと思ったのは「籐子」の「夫を助ける」行為が「刑務所の中」から行なわれるという点だ。「逆リモート」状態である。「籐子」は「囚人でありながら鳴尾の助手」として刑務所の中からプロファイリングを行なっているのだ。アノ映画の「レクター博士」みたいな存在だな!

この小説は「爆弾ウンチク」にも溢れている。時限爆弾の製造法や解除方法など、キナ臭い表現が随所に出てくるが、巻末の参考文献一覧を見ると「う〜むまんまじゃん!」と呟いてしまうのである。なにが「まんま」なのかは御自分で読んで感じていただきたい。

野沢尚著「魔笛」は、ハッキリ書けば「無茶な小説」であると感じる。だが、無茶ゆえに面白いのだ!爆弾魔との戦いは「時間」がかかわってくる。必然的に「刑事の読み」が「爆発時間」のリミットへ向かって加速する事になる。そうなると細かなアレコレはまったく気になら無くなり、一気に読み進む事になる。そして、一気に最終ページにたどり着く事になる!

このように疾走感があるミステリーは大好きだぞ〜〜〜!!!
だが・・・後半になってかなり「痛く」なってくる小説だけど、あの状態で本当にたどり着けるだろうか?

*このところ「貢ぎ物」として贈られて来た本を紹介し続けているので、お送りいただいた登録会員00174内藤様は「ざけんなよ!そろそろ知らねえ本を紹介しろよ〜!」とお思いであろう!これで「自分が読んだミステリー本」は貢ぎ物に不向きな品であると気付かれたであろうなあ!すまんすまん!


本日の結論
「公安」って小説ではいつもいつも虐められる側だなあ!

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