読了的発火点

2002年11月22日 この本を、本当は何日かけて読むべきなのだろうか?



「絶対挫折するのは目に見えているぞ!」

なんと言えば良いのだろうか・・・。なかなか言葉が見つからないが、無理矢理書き出してみよう。真保裕一著「発火点」を読み終えたのだが、あまり紹介する気にはなれなかったが、勇気を奮い起こし書き出す事にした。これって面白い本なの?と問われれば「どうなんでしょ?」と怪し気な返事をするしかない私である。では、面白くないのか?と問われたとしてなんと答えればよいのだろうか?ううむ・・・「微妙・・・」などと女子高生みたいな返事しか出来ないなあ・・・。

無理矢理書き出す原因は、真保裕一著「発火点」そのものにある。この本は先日「貢ぎ物」として届けられた。私自身も近々購入しようと考えていたので「ラッキ〜!」と喜んで受け取ったのであった。そして、11月19日朝の出勤電車内で読み始め、あっけなくも20日の昼休み時間で読み終えてしまった。読んでいる間、ずっと脳裏に「?」が出続けていた。何をしたいのか?小説の方向性がなかなか見え難かったのだ。そして読み終える直前になり、最終ページで「?」はやっと「!」へと変化したのであった。

いつものように腰巻きの惹句を書き出してみよう。

12歳のあの日、
父が殺され、
少年時代の
夏が終わった。


人生を変えた殺人。
胸に迫る衝撃の真相。

なぜ友の心に殺意の炎が
燃え上がったのか?

12歳の夏−−−。
浜に倒れていたあの人。母のため息。
家に寄りつかない父。
−−−そして事件は起こった。
21歳の今、あの夏の日々を振り返る。
刑期を終えたあの人が帰ってくる・・・。
罪と罰の深淵を見つめる魂の軌跡。


著者の真保裕一は「奪取」で初めて知った作家だ。「奪取」はとてつも無く面白かった。偽札造りのハウツー本であるとも言えるくらいマニアックな本である。この1冊で私はすっかり真保裕一ファンになってしまったのである。が、このところ他の作家も読みあさっていたので、なかなか次の真保裕一作品へは手を伸ばしていなかった。

少し前、真保裕一著「青の炎」を紹介したばかりだが、これもまた一直線青春マニアックミステリーとして充分に楽しむ事が出来た。重いテーマと切ないラストシーンに、妙な爽やかさを感じた作品だ。「青の炎」を読み終えた直後に手にした真保裕一著「発火点」はどのような本なのか?広義的には「ミステリー」である。だが・・・。私が期待していた「ウンチク満載マニアック・ミステリー」とは大違いだったのだ!

この小説は「独り言小説」とでも言えば良いのだろうか?主人公の主観的な「思考過程」が延々と述べられている。私の好みとしては「一人称一直線ハイスピード展開ミステリー」が好きなのだが、この小説はあまりにも「思考がくどい!」のだ。ほぼ全編に渡り「主人公の思考」で構築された小説である。

なぜこんなにも堂々回りのネットリ思考系なのだろうか?と巻末を見ると、平成12年11月から平成14年4月まで18か月間に渡り新聞に連載されていた小説であった。引っぱって引っぱって18か月間ひっぱりまくりの連載だったのだろうなあ。となると、日々「新聞連載小説」として読み続けた読者が存在する事になる。

2日で読み終えた私に対し、18か月 = 540日かけて読破した愛読者が存在するってえ事になる。うおおお〜〜〜!!!私はたった2日間でも「くどい」と感じたのだが、それを540日も続けられたとは尊敬に値する「忍耐力」の保持者ばかりである。

この小説は、主人公の「21才時点の思考」と過去の「12才時点の思考」が交互に繰り返される。そこで自分の経験した過去が一体なんであったのか?が浮き彫りにされて行く。そして「現時点の思考」で決着する。この小説はこの「現時点の思考決着」部分が全体にかぶせられた大きな仕掛けとなっている。

小説は往々にして「最後の一行」を読ませたい為に書かれる事が多い。真保裕一著「発火点」はその典型的な小説である。映画「シックスセンス」のラストのような展開とでも言えば、御理解いただけるだろうか?積み重ねに積み重ねた新聞掲載539日分の「事実検証の旅」は、何故そうしなければならなかったのかと、540日目の新聞最終掲載部分で判明する仕掛けになっている。さらに最後の一行で「決める!」のである。つまり、この小説はマラソン走破の快感的「新聞掲載」ではなかったのだろうか?と推察する次第だ。

詳しくここで書くわけにはいかないが、この小説の仕掛けは、真似して実際にやってみようとすると、とんでもない体力と時間を使う事になる。読み終わって「よ〜し!オレもやってみるぞ〜〜〜!!!」なんてな真似をしようとは決して考えないようにね!絶対挫折するのは目に見えているぞ!




本日の結論
真保裕一著「発火点」は決して最後の一行を先に読んではならない!

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