読了的五條本

2002年11月17日 祖国はどこにあるのだろうか?



五條 瑛 著「プラチナ・ビーズ」集英社刊 ¥1,800-

「そうか・・・そうだったのか・・・」

このところの「拉致被害者」報道で、北朝鮮の問題がかなり取り上げられているが、今までミステリーの世界でも北朝鮮はかなり書き立てられてきた。すでに私自身も「北朝鮮」が登場する小説をかなりの数読んでいる。小説として「日本を侵略する敵国設定」をするには、日本の地理的位置関係と様々に引き起こされていた「工作船事件」が感情移入させやすい状況を生んでいるのだろう。あの国以外を敵国設定するにはフィクションとして「嘘」臭くなり過ぎる可能性があるし。

数週間前に三軒茶屋のBOOK OFFを時間潰しにうろついていた時、出くわしたミステリー本がある。五條 瑛 著「プラチナ・ビーズ」だ。この本を手に取るきっかけとなったのは、その腰巻きにあった。強烈な一言が書いてあったのだ。まずはそれを御紹介しよう。

作者は
いったい
何者だ---。

浅田次郎

「祖国はもう、私の胸の中にしかない」
ある者は信義のために。
ある者は、愛する家族のために。男たちは立ち上がった。
飢餓にあえぐ北朝鮮で進行する、ある「計画」。
期待の大型新人が描く、本格派スパイ小説、渾身の1200枚!

かつてこれほどリアルで精密な国家謀略小説があっただろか。
恐れというものを知らぬ強靱で奔放な「肉体」が、
この物語をまるで使命のように書かせたにちがいない。
作者はいったい何者だ---。

---浅田次郎

発行日を見ると1999年2月に第二刷となっている。BOOK OFFでは比較的新しい「100円本」である。作者の「五條 瑛」について私には全く情報がなかった。カバーに書いてる作者紹介を読んでみた。

五條 瑛(ごじょうあきら)
大学時代は安全保障問題を専攻。卒業後、防衛庁に就職。
情報、調査専門職に就き、主に極東の軍事事情および国内情報の収集を担当する。
退職後は、フリーライターとして活躍中。


五條 瑛 著「プラチナ・ビーズ」は二段組434ページのたっぷりした量がある。かなり期待してよさそうな感じがしたので買う事にした。そしてしばらく放置した後、読みはじめたのは11月8日朝だった。通常であればこの程度の量は早ければ2日、長くても3日で読み終えるはずだった。だが・・・読みはじめてすぐに停滞が始まってしまったのだ!

この本はミステリーではあるが「スパイモノ」だ。私にはどうも感情移入がスムーズに行かなかった。なぜだろう?読んでいるうちにどうも視点がフラフラしている感じがしてきた。文体のリズムが掴めない。まだこの作家に馴れていないせいか?主人公は「葉山」という若い男だ。所属するのはアメリカ国防省の情報組織、通称「会社」である。「葉山」は「人的情報収集活動」のプロであるがペーペー扱いされていた。この本のスタートは「葉山」からではない。北朝鮮の飢餓の描写から始まる。

いつものように、これ以上の詳しいストーリー解説はしない。

さて、この「プラチナ・ビーズ」は男世界を描いている。スパイものなので頭脳戦もあるが、人的情報の調査は地味である。じっとりした小さなエピソードの詰み重ねが続く。後半になると「肉体的痛さ」を感じさせるハードな部分もあり、皮肉な「へらずぐち」を吠えまくる人々も登場する。まったくもって、どうしようもない運命に翻弄されている男達の「辛さ」が伝わってくる。

私がなかなか読み進めなかった理由に「体調」もあった。1週間程軽い頭痛が続いていたので、出勤退勤の電車の中で読書に集中できない状態が続いたのだ。半分まで進むのに3日もかかってしまった。この小説の出来の問題ではない部分が体調にあったのだ。

2/3を過ぎたあたりから読書スピードが上がって来た。ようやく読み終えたのは11月16日午前中。小説はやはり一気に読まないと記憶が薄れる。頭の部分に出て来たエピソードや「仕掛け」に対する記憶が曖昧になり、面白さが半減するのだ。せいぜい3日では読み終えたいものだ。

結果からいえば、私の好みとしては「評価は中の上」となる。やはり「視点の動きやクドさ」がちょっと私の好みとは違っていたのだ。私の好みは「一つの視点」で突っ走るミステリーである。一気に駆け抜ける快感が好きなのだ。「宮部みゆき」の小説は好きだが「人物描写がくどすぎる」のが苦手といえばお分かりいただけるだろうか?

だが「プラチナ・ビーズ」の持つ世界を否定しているのではない。これはこれで「あり」である。そこで、この作家について調べてみたくなりWEBで検索したところ、「プラチナ・ビーズ」に続編があることを発見した。「スリー・アゲーツ」だ。やはり「葉山」が主人公の「北朝鮮もの」のようだ。さてと悪い癖だが、シリーズものとなればとっとと読んでみたくなる。この作家の手口も分かってきた事だし、次回は「体調」を整えてから一気に読んでみるか!

で・・・WEBで作者のデータ調べ続けている内に、私が全く大勘違いをしていた事に気がついたのだ!この作家「五條 瑛」の講演会の記録が出て来た。そこに講演中の作家の画像が出て来たのだ。なに〜〜〜なんだとう?この作家は女性だったのか〜〜〜!!!そうか・・・そうだったのか・・・小説の題材と人物プロフィールを読んで当然のように「男性」であると私は錯覚していたのだ!これでようやく私の読書スピード低下の原因に対し、理解できる部分が出て来たぞ!

私が苦手とする「宮部みゆきの説明し過ぎ」や「桐野夏生の生理感」に通じる部分を「プラチナ・ビーズ」にも無意識の内に感じていたのだと思うなあ。それで読破スピードが落ちていた可能性がある・・・。私は女性作家がどうのこうのと言っているわけではない。苦手ながらも、それぞれ好きで読み続けているのだ。

私が今まで読んで来たミステリーでは、女性作家の場合「私の読書スピードがもたつく」傾向にある事実を書いただけである。そのモッタリ感が好きな方々も多いのだろうがね!てなことで、もうしばらく「五條 瑛」の本を読み続けてみようと思う。3冊も読めばその世界観が理解できるようになるかもしれないなあ。





本日の結論
五條 瑛 著「プラチナ・ビーズ」は100円コーナーで発見したが、
サービス券を50円分持っていたので、現金で支払ったのはたったの55円であった!
マックの59円ハンバーガーより安かったぞ〜〜〜!!!

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