読了的青炎本

2002年11月09日 犯罪者を応援する心情は・・・!


貴志祐介著「青の炎」角川書店刊

「残りも根こそぎ読むとするか!」

あなたは「あいつを殺したい!」と考えた事はあるだろうか?もしくは「完全犯罪」を目論んだ事があるだろうか?ミステリー小説にはそんな個人感情を「バーチャル」で完結・発散させてくれる「代討ち」の効果もある。そんな本である。

今回読了したのは、貴志祐介著「青の炎」角川書店刊だ。11月8日の出勤電車の中で読み始め、昼休み時間にも読んで、さらに帰宅時の電車で読んでいたら、あっという間に読み終えてしまった!たった一日だけで読める程、スピーディーな展開だ。舞台は鎌倉、江ノ島周辺の実に狭いエリアだ。自転車好きの高校生「櫛森秀一 17才」が主人公である。

まずは、作者の御紹介から始めてみよう。

貴志祐介[キシユウスケ]
1959年、大阪生まれ。京都大学経済学部卒。生命保険会社に勤務した後、フリーに。96年、「ISOLA」が第三回日本ホラー小説大賞長編賞佳作となり、『十三番目の人格―ISOLA―』と改題し、角川ホラー文庫より刊行される。翌年『黒い家』で第四回日本ホラー小説大賞を受賞、同作は100万部を超えるベストセラーになる 。

以下が、私が知っている貴志祐介の作品リストだ。すべてBOOK OFFで手に入る。もっと新しい本もきっと出ているはずだが・・・。

「十三番目の人格−ISOLA−」1996年 第3回日本ホラー小説大賞 長編賞佳作
「黒い家」1997年 第4回日本ホラー小説大賞 大賞受賞
「天使の囀り」1998年
「クリムゾンの迷宮」1999年

「青の炎」1999年

この中で私がすでに読んだのは「黒い家」「天使の囀り」「青の炎」の3冊だ。前2冊はかなりグロイ部分もあるが、いずれもかなり楽しめる本だ。早いうちに、残りも根こそぎ読むとするか!

WEBに発表されている他の方々の書かれた「青の炎」書評では、ストーリーをかなり紹介している。ミステリーのストーリーを事細かに紹介しても意味はないので、どうしても知りたければ、それは検索してそちらで勝手に読んでいただくとして、私はひねくれた視点で違う事を書くべきだろうなあ!

貴志祐介著「青の炎」は貴志祐介得意のホラーではない。青春ミステリー物である。そして、すでに映画化が決定している。来年の春には全国東宝洋画系でロードショー公開される予定。映画では主人公は「二宮(嵐)」が演じる事になっている。その恋人「礼子」役は「あやや」こと「松浦亜弥」だという。本を読んだ感じでは、適格なキャスティングに思える。だが・・・。

ミステリー用語では「フーダニット」という言葉がある。「誰がやったのか?」の意味だ。つまり「犯人捜し」がミステリーの需要なポイントだ。「フーダニット」であれば、まず「殺人」などの「犯罪」が発生し、それが何故起こったのか?誰がやったのかを追う展開となる。小説内で犯人の名前が明確になる前に、小説にちりばめられた絶妙な手がかりや伏線を読み取り先に見つけだすのがミステリー通と言うものだ。それに対抗するかのように「読者があっと驚く犯人」を作り上げるのが作家の腕である!

さて!この本では、犯人は17才の高校生「櫛森秀一」である(おいおい!)いきなり犯人バラシかよ〜!と激怒しないでいただきたい。御安心下され!この本は「倒錯ミステリー」である。犯人は最初から分かっているのである!「青の炎」の興味あるテーマは「17才の高校生は完全犯罪を行なえるのか?」なのだ!そして読者は犯人と同じ目を持って、同時に過程を楽しむ本なのである。

「こんなにもせつない殺人者がかつていただろうか」
光と風をあびて、17歳の少年は海沿いの道を駆け抜ける。
愛する妹と母親のために・・・。
氷のように冷たい殺意を抱いて。


まずは完全犯罪を実行するための「準備段階」として、主人公は手口の研究を始める。「学校教育」で目にした事がある様々な「知識」や「法医学」が紹介されていく。その内にかなりマニアックな内容に影響されてか、主人公へ感情移入していくのが感じられる。なんとかして「完全犯罪」を達成させてやりたいと思うようになってしまうのだ!「倒錯ミステリー」にはありがちな「読者感情」だろうなあ。

主人公に感情移入が成功すると、次に待っているのは「警察」との対立である。「刑事」が主人公のミステリーでは「刑事側」に立った精神状態で犯人を追い込みたくなるが、今回は「犯人」が主人公なのだ。読者も追われる者の精神状態となって、知らず知らずの内に「刑事」とバーチャルな戦いをしてしまうのだ!結構「胸に迫る」ものを感じる展開だ!

一気に読み終えるスピード感と読みやすい文体は心地よいが、疑問点もいくつかある。主人公はアルバイトをしているため「小銭」を持っている。そのため完全犯罪達成の為のさまざまな資料や道具を揃える事が出来た。だが・・・それにしてはちょっと金の持ち過ぎじゃないか?それに「酒」も飲み過ぎだしなあ(なにそれ?)

さ〜てそこで「映画化」の問題点も出てくる。この小説を原作として忠実に作り上げるためには「あのシーン」が必要になってくる。どうするのだろうか?「あやや」もついにそれを演じるのだろうか?オジサンとしては非常に気になるぞ!全編に渡り、主人公の怒りと悲しみが溢れている小説である!さらに、この本の「あとがき」にさり気なく書かれている「注意書き」も面白かったぞ!

この小説は、かなり雑学も身につく!しかし・・・とても悲しい小説でもある!



本日の結論
「青の炎」をWEB検索をする際に間違えてキーワードを「青い炎」と入れてしまった。そして出て来たのは以下の画像であった。アラジンの「ブルーフレーム」という名のストーブである!

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