読了的逃走系

2002年09月12日 この小説はスピードが勝負だ!


講談社刊 定価1700円(税別)

「追う者達の正体とは?追う理由とは?」

昨年、この時期に江戸川乱歩賞を受賞した「13階段」なる小説が世に出た。すでに映画化にもなり、2003年2月に封切られる予定だ。その作家「高野和明」の最近作「グレイヴディッガー」を読了した。週刊誌の書評欄で評価が高かったので、久々にまっとうな金を出して新刊を購入したのだ。勇気ある行動である!(それが普通じゃないのか?)

そもそもこのタイトル「グレイヴディッガー」はどのような意味があるのだろうか?中世ヨーロッパの魔女狩りに起因するキーワードである。詳しい意味は、この本の頭の方で明確にされるので、ここではネタはばらさないでおこう。「グレイヴディッガー」はスリラーの要素も持ったミステリーである。そして、主人公「八神俊彦」の逃走劇でもある。

「13階段」の衝撃、再び!
失踪するノンストップ・スリラー!


都内全域で、一夜のうちに起こる無差別大量殺人。中世暗黒時代、
異端審問官を皆殺しにした「伝説の死者」が、現代の東京に蘇る。
圧倒的なスピード感で展開する、期待のエンターテイメント巨編、ここに登場!

江戸川乱歩賞受賞第一作!

八神は理由もわからないまま突然追われる身となった。追い掛ける相手は「八神を狙う謎の集団」そして「警察組織」。八神は東京の北からの果てから六郷へ向けて疾走する。彼が危険を犯して走り抜ける理由は何か?これまたこの小説のテーマに関する事なので、理由は明かせない。追われる理由は八神自身にも分からないまま疾走は始まるのだ。

冬の東京で繰り広げられる逃走劇は「行け〜〜〜!!!行け〜〜〜!!!」とかけ声をかけたくなる程の疾走感と、八神の逃走能力に魅了される。折しも警察官の拳銃使用が解禁された瞬間の12月1日0時は、その逃走の真っ最中である!解禁時刻を待ったかのように警察は八神に向けて発砲を始めるのだ。日本の警察も派手になったものである!

その銃弾をかいくぐり八神は逃亡を続ける。この小説の疾走感は時間が関係している。かなり短い時間に都内で次々起こる奇怪な殺人。連続殺人なのか?単独犯なのか?それともカルト集団の行為なのか?事実と憶測が交差し、ますます八神は追い詰められて行く。なぜ八神はこれほどまでに追われなければならないのか?そして、追う者達の正体とは?追う理由とは?

この小説の「逃亡シーン」は東京都内に住んだ経験があり、八神が逃げ回る場所の土地カンがあるとやたら面白い!ほほう!あの場所でそう来るか〜!と映像を頭の中で描きながら楽しめるのである!もし、これを映画化するとなれば、東京都の全面的バックアップが必要となる。各交通機関もバックアップしてくれれば、こりゃあ凄いスピード感溢れるジェットコースター・ストーリーになるだろうなあ!

後半、終りまぎわになり謎が解明されはじめると、途端にそれまでの様々な情報のつじつまが合いはじめるが、終わりはちょっと御都合主義の感は否めない。全体的にスピード感を求めるあまり「急ぎ過ぎ」の気もする。微妙に「あれ?」と思われる記述もあったが、全体とすれば上出来のミステリーである。

読み終えて感じるのは「警察機構」の不思議さである。今までにも紹介して来た「百舌シリーズ」でもそうだったのだが、「刑事部」と「公安部」の対立が「警察モノ小説」の定番である。たいていは「公安」がかなりひどく批判された表現になっている。本当にそうなのだろうか?今回は公安に配属される為の教育にまで言及しているが、かなり面白い表現がしてあった。もう、言いたい放題でなのだ! だが・・・このような小説には便利な〆の言葉がある。これさえ最後に書けば何でも許されるのが小説の世界だ。

「この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は架空のものです」

高野和明著「グレイヴディッガー」をこれから読まれる方は、是非万難を排し、数時間で一気に読み終えられる事をお勧めする。このスピード感を小説の中だけではなく、読み通すスピードでも味わった方がより楽しめると考えるからだ。初版出版されたのは今年の7月31日なので、もうそろそろBOOK OFFに出ているかもしれないなあ。ミステリー好きはBOOK OFFに急げ!(本屋じゃないのか〜?)

最後に、腰巻きの裏面に書かれている文章を御紹介しておこう。

都会の闇を生きてきた悪党・八神俊彦は、運命の一日を迎えるはずだった。生き方を改めるため、自ら骨髄ドナーとなり白血病患者の命を救おうとしていたのだ。
ところがその日、都内で未曾有の無差別大量殺人が発生。大都市・東京は厳戒態勢に突入した。そして友人の死体を発見した瞬間から、八神の必死の逃走劇が始まった。
警察、謎の集団、正体不明の殺戮者から逃げ切らなければ、八神の骨髄を待つ白血病患者が死ぬ。八神は生き残れるのか?謎の殺戮者・グレイブディッガーの正体とは?
著者渾身のスリラー巨編が、ついにその全貌を現す!



本日の疑問
水没した携帯電話とパソコンは、あんなに簡単に復旧するものだろうか?

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