読了的夢診療

2002年02月22日 夢は可視化できるのか?



筒井康隆著「パプリカ」中央公論社刊 1500円


「精緻な文章が精神を揺さぶり続けるのであった」

先日、夜観る夢のコントロールについて書いてみたが、結局その後はコントロール出来るような夢を観る機会に恵まれ無いままだった。現実には何度も夢を観たのだろうが・・・覚えていないだけかも知れない。しっかり観たつもりの夢の内容でも、覚醒するとすぐに忘れてしまうのは、夢の記憶がかなり「浅い記憶」だかららしい。渾沌とした内容を明確に記憶するのは、夢で無くても難しいのだが。

夢とはなんぞや?と根源的な疑問も湧く昨今である。そんな時にはBOOK OFFに行く事にしよう!夢に拘わる本を見つけ出すのもまた一興であろう。てなことで、ふらりと立ち寄った三軒茶屋のBOOK OFFの100円コーナーで見つけた本が、筒井康隆著「パプリカ」中央公論社刊だ。筒井康隆の本は20才前後にかなり読んだ記憶がある。当時は筒井康隆=SFの鬼才ととらえていた。主にショートショートを好んで読んでいたなあ。

筒井康隆著「パプリカ」は1991年〜1993年にかけて月刊誌に連載されていた小説である。一冊の本にまとめられ出版されたのは1993年9月になっている。ほぼ10年前の小説だ。最近の携帯電話やPC、インターネットの技術進歩で、10年程前のミステリー小説が、今読むと陳腐化している場合がある。特に電話トリックなどを駆使したもの、電子メールを使ったものなどはその傾向が大きい。

筒井康隆著「パプリカ」はミステリー仕立てのSFである。SF仕立てのミステリーとも言える。これが何を意味するのか?SFであるが故に「何でもあり」になるのだ。つまり、小説に出て来る機器類が現実に存在しない「架空の機能」を持ったものであっても「SFだからなあ!」で許されてしまうのだ。となれば、現実に存在しないものは古くなりようも無いので陳腐化する事も無い。まったくもって便利な「SF」である。


一口メモ


「パプリカ」
植物学的にははレッドペパ−と同じ分類に属しますが、品種改良によってできた辛くないタイプのとうがらしです。16世紀ぐらいに辛くないカプシカムペパ−ができ、後にこれをハンガリ−語で『パプリカ』と呼ぶようになりました。それ以後、辛くないレッドペパ−を世界的にパプリカと言うようになっています。


この小説は「一部」「二部」の構成になっている。連載時にも「一部」と「二部」の間は4か月も空白があったようだ。 主人公は「パプリカ」と自称する「サイコセラピスト」である。精神病患者の治療をするのが仕事だ。若い女性だ。本名は別にある。当たり前だな。ペンネームのようにセラピストネームとして「パプリカ」が存在している。そして、その精神病治療に登場する電子機具が「SFならでは」の機器なのだ。

患者の頭に取り付けて眠らせその脳波から夢の画像を記録する装置がある。記録された夢の内容を分析する事によって、患者の心的障害を見つけ出し治療に役立てるのだ。さらに、その装置の進化系は、患者の夢の中にサイコセラピストが潜り込み直接患者の夢に拘わる事で、重傷患者の治療効果を劇的に飛躍させるのである。

現実にはあり得ない話だが、読み進む内にこれが「さもありなん!」とばかりにリアルな質感で迫ってくるのだ。「パプリカ」はサイコセラピストというより「夢探偵」に近い存在でストーリーは展開する。やがて「一部」はその展開のピークで突然終了する。いったいどうしたのだ?どうしたのだ〜〜〜!!! やがて「二部」へ突入した私は、ズッポリと筒井ワールドへ引き込まれてしまうのであった。それは夢なのか?現実なのか?そして小説なのか?精緻な文章が精神を揺さぶり続けるのであった。混乱が混乱を呼び、読者としての立脚点が揺れる。

この小説は、そもそも現実を描写したものなのか?それとも現実そのものが夢の続きなのか?筒井康隆の造り出した世界は、渾沌をさらに混沌へと導いて行く。夢をコントロールする行為はこれほどまでに危険な行為なのか?そして・・・結果は・・・。

古今東西のミステリー小説では、アリとあらゆる登場人物が犯人とされた。ストーリーテラーの探偵本人が犯人である「●の悲劇」などの名作があるが、まだ「読者が犯人」の納得出来る作品は登場していない。そりゃそうだな。どうやっても、物理的に読んだ人全員を犯人にできない。その本を読む行為そのものが犯罪になっていなければ犯人となり得ないからだ。だが小説「パプリカ」のように架空の装置を使えばそれも可能になるかも知れないなあ・・・(ならねえよ!)



本日の結論
久々に読んだ筒井康隆著はなかなか満足させてくれたぞ!読んでみる?

------------------------------

「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



GO TO HOME PAGE