誕生的十年目
2017年10月24日 皆様に感謝すべき日であると!


この10年間に撮影した写真で一番好きなヤツ。2010年9月10日撮影
「シンプソンズ」の作家 Mr. Matt Groening の自宅で有名ギタリストたちとランチ!


「自分自身のなかで密かに感謝する日としている」

あの日から本日で10年が過ぎた。

ペダル製作開始半年前、無謀にもギターアンプを作ってみようと考えていた2007年4月頭にギタリスト是永功一氏から伝えられた言葉があった。

私  「ギターアンプを作るとしたら、どんな音を目指したらいいんですかね?」
是永氏「Larry Carlton や Robben Ford のダンブル・サウンド!このCD聞いてみてください!」

2005年3月から鬱病に全身が蹂躙され、自分の行末が全く見え無くなって2年半が過ぎた頃それは突然やって来た。自宅療養のために取った13か月間の休暇。長期休職を終え2007年4月1日再就職したものの、その出社初日に「しまった・・・まだ動き出すのが早かった・・・」と悟った日から半年後の9月のことだった。その時はまだ奇跡の予兆なぞ知る由もなく、ただ友人たちとの語らいだけで終わると思っていた日だった。

「田辺さん、これでなにか面白いもの作ってくださいよ!」とお土産として渡されたのがオペアンプ「JRC4558D艶あり4個」と「ビンテージワイヤの束」だった。渡してくれたのは当時シカゴ在住だった綿貫さん。ネットで繋がっていた方だ。久々の里帰りで同じ神奈川に実家があるということから、当家へ顔を出しに来られたのだ。アンプいじりやペダル製作を趣味とされている方だ。現在、名古屋在住。

綿貫さんはギタリスト是永功一氏のファンであった。そして私は是永氏の友人である。綿貫さんが当家へ来られる日に合わせて、是永氏にも声をかけて来てもらうことにした。そしてその日が来た。当然、ギター談義、ペダル談義、試奏で盛り上がった。その時に渡されたのが先程書いた「JRC4558D艶あり4個」と「ビンテージワイヤの束」同じものが是永氏にも渡された。

「面白いものってなんだ?」と自問自答しながら何を作ってみようかと模索して、方向性を決めたのはその半月後だった。「オ−バードライブ・ペダルを作ってみよう!」理由は、それまでに幾つかのオーバードライブ・ペダルを試奏してみたが、どれも気に入らなかったからだ。しかし、私にその専門知識はまったくなかった。まずはネットで資料を探してみた。めぼしい回路図をいくつも手に入れて検討を開始した。しかし回路図の意味がわからない。実体配線図を探してみた。ようやくオボロゲに作り方が見え始めるまで一週間かかった。そして、2種類の回路で作ってみることにした。

回路に必要な幾つかの部品を定数違いで多めに発注した。慣れない細かなはんだ付け作業に手を焼いた。ユニバーサル基板が美しく仕上がらない。その為ノイズが発生し続けた。セオリーを知らぬままの作業なのだ、パーツを幾つも壊してしまった。やがてスタートから二週間後、4個の試作ペダルがそこにあった。二個は完全に役立たず。後の二個はオーバードライブサウンドが出てくれたが、それでいいのか?自分では判断がつかなかった。もちろん是永氏は私が試作していることを知っていたので頼ることにした。

翌日、是永巧一氏の家に押しかけた。試作ペダルに対する冷静なプロの評価が欲しかったからだ。結果から言えば惨敗だ。一個は話しにならず。最後の一個は「いいところまで来ているけど、プロが使う水準には達していない」と言われた。何が劣っているのか?その内容を聞いたところ七項目が挙げられた。だが、音に関しては抽象的な表現が多い。「ローが出すぎている。もっとハイが欲しい。ゲインが強すぎるね。ずっと歪んでいる、クリーンも出せなきゃダメだ!もっとジャリ感が欲しいね!」などと・・・。かと言って数値で言われても対応はできない私だった。

自宅へ戻り、修正作業に入った。どうすれば是永氏が話してくれたソノ音に近づけるのか?必死になって考えつつ、試行錯誤を徹夜で繰り返した。ある程度煮詰めたところでパーツの定数を細かく変化させながら、音の変化を聴き取っていった。打つ手がなくなってきた時苦し紛れに、ふと思いついたパーツを加えてみた徹夜二日目の明け方四時・・・。その音が突然飛び出してきた。是永氏の言葉を反芻してみた。7項目のすべてがクリアされている気がした。

翌日昼過ぎに起きた。夕方になり是永邸へ再度試奏してもらいに出かけた。試奏開始から15分後、是永氏から「合格!僕にもすぐ作って!」との声が飛び出した。「禅駆動」誕生の瞬間であった。この「筆文字で縦に禅駆動」は是永氏の命名である。もちろんジョークだった。そしてそれは是永氏の分と私の分の二台を作って終わる遊びのはずだったが・・・。その夜、早くもオーダーが入った。オーダー第一号ユーザーは是永氏が禅駆動初号機を試奏に持ち込んだ松川純一郎氏。その後、毎日のように口コミで是永氏のギター仲間からオーダーが入ってきた。さらに、アマチュアギタリスト達が聞きつけて「作ってもらえませんか?」」と問い合わせが始まった。しかし、オペアンプ「JRC4558D艶あり」は1980年代初頭のオペアンプである。もうほぼショップでは販売はしていなかった。ヤフオクであさりまくったがなかなか手に入らず苦労の日々だった・・・。

やがてユーザーの「シングルコイル用にもう少しGAINが欲しい!」とのリクエストで「弾駆動」を派生させた。スタートから一年後、初の海外からオーダーが入った。アメリカ・オクラホマ州のジャズギタリスト Shane Conaway からだった。彼は試奏後、すぐに Youtube にレビューをアップロード。「これはダンブルサウンドだ!このペダルが欲しかったら日本のtanabeに連絡しなさい!」と口走っていた。その映像の最後で私の名前とメールアドレスを伝えていた。Youtubeの威力は凄まじい。翌日、世界中から問い合わせメールとオーダーメールが押し寄せてくる結果に。その日から世界対応を迫られることになり、英文メールに苦しむ日々が始まった。しかし、慣れは恐ろしいものだ。英文メールにも落ち着いて対応できるようになり、ジワジワとオーダーがやって来る国が増え始めた。現在67か国に達し世界6大陸が制覇できた。もちろん南極大陸も含んでいるのだ。

2010年9月9日にLAで初顔合わせした Paul Jackson, Jr. を皮切りに、翌日には Henry Kaiser, Howard Leese, Richard Thompson と会食することが出来た。私がLAに行く前「あなたに会いたい!貴方の家に遊びに行ってもよろしいですか?」とメールを送った結果がコレだった。ギタリスト達はフレンドリーに「もちろん!遊びに来てください!」と返事してくれたのだ。自分が思い切って動くことで相手も動く。 それは奇跡的体験だった。その後次々に世界的に有名なギタリストたちと会う機会が持て、遂に2012年2月に来日した Robben Ford, 4月に Larry Carlton のライブへ招待され、楽屋で話をすることが出来た。上記のギタリスト達はすべて私が作ったペダルの愛用者たちだ。特に Larry Carlton はインタビューの度に「禅駆動」の愛用者であることを明言している。オーダー者の半分以上が Larry Carlton のファンなのだ。ちなみに Larry Carlton に面会した直後、私は7年間続いた鬱の世界から離脱することが出来た。 Larry Carlton から認められたという強い想いがそうさせたのだろう。Larry の言葉と音楽にはそれほどの説得力があったのだと後になり理解した。

ここで書き忘れてならないのは、Larry と Robben のツアーマネージャ兼テック Rick Wheeler の存在だ。彼がLarry に禅駆動を推奨してくれたのだ。それを Larry が気に入り現在へと至っている。Robben Ford へ弾駆動を推奨してくれたのは、サンフランシスコのペダルボード/ペダル製作者 Mason Marangella だ。彼等二人によって私のペダルが一気に世界へ広がることになったのだ。

もう一つ特筆すべきギタリストが Henry Kaiser だ。グラミー賞も取ったことがあるセレブギタリストと親友と言えるまでに親しくなることが出来た。Henry はDumble AMP. が世に広がった起点になった人物だ。彼は多くのギタリストに「弾駆動」も広めてくれた。2015年にはカリフォルニアの彼の家に一週間ホームステイし、多くの技術者やミュージシャン、ギタリストに会うことが出来た。奥さんの Brandy Gale ともとても仲良くなれたし、その冬に Henry 夫妻が来日し4日間一緒に東京を歩き回った。来年1月末にはNAMMショーの帰りに彼の家に遊びに行く予定になっている。最初は単なるユーザーだったはずの Henry Kaiser 、ここまで仲良くなれたのは本当に奇跡だと思うのだ。

2015年1月突然やって来たのは、Jerge Santana からのオーダーだった。日本公演で顔合わせした際に「兄のカルロスも気にいると思うので彼用に禅駆動を作ってください!」と頼まれ、すぐに製作してプレゼントした。3か月後、ツアーから返ってきたカルロスに手渡したと報告があった。いつの日か渡したいと思っていただけに、敬愛する Carlos Sanatana の手に渡ったというだけで幸せな気分になれた。

禅駆動が誕生した日から今日で10年経ち、今も私は「禅駆動」や「弾駆動」を作り続けている。一つのギターペダルをこれほど長く作り続けるとは思ってもいなかったが、人生が変わるほどのキッカケを作ってくれたのは、綿貫氏であり、是永氏であり、Robben Ford、Larry Carlton 、Henry Kaiser、Paul Jackson, Jr. を始めとする多くのギタリスト達だった。日本のギタリストで言えば、是永巧一氏、松川純一郎氏、清水一雄氏、梶原 順氏、等数え上げたらキリがない。そして技術的に支えてもらっている基板作りの株式会社アルニックの野村社長や、オリジナルのケース製作をやっていただいているギャレットオーディオのご担当、来日ギタリストとの通訳を担当してくれた橋本 潔氏など、感謝すべき方々は数え上げたらキリがないが、この場で皆様に感謝申し上げたい!

そこで、10周年記念として今まで要望が多かったが、なかなか造れなかったアルミ・ポリッシュケースTWINシリーズを本日より製作開始。以下のような外観。材料の高騰により少し値上げさせていただくことに。

 

今年の夏前には試作品が完成していたが、量産するのが難しくて今まで躊躇していた「micro 弾駆動」の受注も開始。「micro 弾駆動」はスリーモードの内「グリーンモード」だけ取り出してミニ・ケースに収めたもの。ペダルボード・スペースが少ない方にお勧め!サウンドは通常の弾駆動グリーンモードと全く同じだ。ちなに、Larry も Robben もグリーンモードしか使っていない。



最後になったが、もう一度。
ペダル製作直前にギターアンプを作ってみようと考えていた頃、2007年4月頭に是永氏から伝えられた言葉があった。

私  「ギターアンプを作るとしたら、どんな音を目指したらいいんですかね?」
是永氏「Larry Carlton や Robben Ford のダンブル・サウンド!このCD聞いてみてください!」

そして10年経過した今、それはアンプでは実現しなかったが、Larry Carlton も Robben Ford もスタート時はド素人だった私が作ったペダルを愛用している。これを奇跡と言わずしてなんと言うのだ?私は毎年10月24日を是永氏がそのサウンドを認めてくれた「奇跡の日」として自分自身のなかで密かに感謝する日としている。


本日の結論
待っているだけでは奇跡はやってこない。動くべきだ!

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