奇跡的五百個

2010年09月26日 そして奇跡が起こったのだ!


「なかなか深遠な思考だなあ・・・」

それは3日前、9月23日朝の出来事だった。

朝早く目覚めた私はいつものごとく、オーダーされていたペダル製造作業を5時過ぎから始めていた。まだ早朝なのでドリル等の騒音を撒き散らす作業はできないので、基板にパーツを取り付けるハンダ作業だけだったがね。このところ立て続けに「燦駆動」のオーダーが入ってきて、久々の作業だったので、ちょっと手間取りながらもなんとか組み上げた。

さすがに腹が減ってきたので、ひと休みして朝食にするかと思い始めた8時過ぎ、そのメールは突然届いたのだった!

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突然のメール申し訳ありません。
ホームページの独断倉庫を拝見させていただきました。
その中で、JRC艶あり4558Dのお話(6月2日分)がありました。

当方ある程度の数を所有しているのですが、
買い取っていただくことは可能でしょうか。

本当に突然のメールで申し訳ありません。
よろしくお願いします。
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確かに私は、オペアンプ「JRC4558D艷アリ」を探している旨の表記をしていた。1980年代に製造されたこのオペアンプは、マニアからプロまでみんなが欲しがっている名品なのだ。さすがに時が過ぎて、ショップの在庫が枯渇し、わずかに残っていたものは価格が高騰しつつもあらかた買いつくされてしまった。もうショップでまとまった量を売っているところはどこにもない。

しかし、私が作るペダルには「JRC4558D艷アリ」を採用しているため、喉から手が出るほどに欲しいと、6月2日の独断倉庫で切実に訴えていたのである。手持ちの「JRC4558D艷アリ」は日々その在庫数を減らしている。これから先を考えると1年程度で使い果たす量しか残っていない在庫量にいささか焦る私であった。

代替えオペアンプもかなりの数を探し、ようやく「ひょっとしてこれなら?」と思える現行品のオペアンプもひとつだけ見つけ出していたのだが、それとて「ひょっとしてこれなら?」というレベルで、まだ確信ではなかった。そこでやはり「JRC4558D艷アリ」探しはやめていなかった私なのだ。

そこへ飛び込んできた「JRC4558D艷アリ」在庫有のメールであった。しかし!これをそのまま文面通りに取るわけにもいかなかった。まず、在庫数の問題と単価である。さらにはこの内容は本当なのか?疑えば「詐欺」とも取れる内容ではないか!しかし、無視するにはあまりも惜しい話である。とりあえず話だけはしてみよう!

そこでメール送信者とのやりとりが数回続いた。

在庫数の確認と、単価の確認である。更に重要なのは取引の方法だ。もし、九州や北海道の住人であれば取引方法に気を使うことになる。お互いにリスクがあるではないか!かくして最初に判明したことは、在庫数は500個だということだった。なに?500個だと?ほんとかよ〜!それが本当なら奇跡だ!

だが、ここで喜んでよいのだろうか?どこかに落とし穴は待っていないだろうか?更に判明したことは、相手が横須賀在住であることだった。おおお〜〜〜!!!それであれば、当家まで持ってきてもらって、現物を確認してからの取引が可能ではないか!結論として相手もその取引条件を飲んだのであった!そうなると、問題は価格だけとなる!

交渉の結果、程良い単価で500個全量購入が決着した。さらに合計金額 +「弾駆動」1台が上乗せとなった。これは必然であると私は理解したので、すぐに製造へ突入した。交渉相手はT氏である。あえてアルファベットにしておいたが。程良い価格とは言え、すでにかなり高騰している「JRC4558D艷アリ」である。500個まとまるとさすがに高額な買い物となる。しかし、今この機会を逃すと次にいつ手に入るか分からないのだ!直ぐに現金を用意した。

9月25日午後13時半。日吉駅前で待ち合わせし、私は車でT氏を迎えに行った。時間ピッタリに駅前に行くとT氏はすでにその場所へ到着していた。見た目にも明らかに「JRC4558D艷アリ」の束と思えるものを胸元に抱えている。車に乗った我々は、すぐに私の自宅へと向かった。そしてT氏を私の作業部屋へと招き入れた。

まず最初に現物の確認だ。確かに「JRC4558D艷アリ」の50個入りのケースが10本あった。ロットナンバーを見ると、いくつかに分かれていたが、現時点で私が使っているロットナンバーもその中にあった。ケースから取り出してみると明らかに「JRC4558D艷アリ」であると確認できたので、すぐに支払いを済ませた。さらに、T氏のために前日製造した「弾駆動」をお渡しした。これで所有権は私へと移ったわけだ。一安心である。

その後は、私が持っていた疑問をT氏に確認しつつ、様々な話をタップリと続けた。T氏は48歳。機械加工系の技術者である。宇宙ロケットや防衛庁で使用する特注機器の金属加工をやられている方のようだった。私が一番疑問だったのは、なぜ「500個」も所有していたのか?そして、なぜ今それを手放すのか?だったのだが・・・。

T氏は高校生以来、30年以上弾き続けているアマチュアギタリストである。彼は5年前に「エフェクターを自分で作ってみよう!」と思い立ち、当時評判だった 「JRC4558D艷アリ」を探して購入したのだという。つまり5年前ならまだ500個まとめて購入することが可能だったのだ。

しかしT氏は、当時ペダルを作るための知識は持ちあわせていなかった。その後T氏はペダル製作に動き出すこともなく、そのまま500個の「JRC4558D艷アリ」は彼の部屋で眠り続けたのである。5年後、彼はtanabe.tv にアクセスすることになり、切実に欲しがっている状況の私を発見したのであった!そこで彼は躊躇しつつも、私宛にメールを送ったってことなのだ。この先T氏はもう自分で「JRC4558D艷アリ」を使うこともないだろうとの判断だったのだ。

よくぞ、5年前に500個を購入し眠らせて頂いたものだ!私はT氏に感謝しつつありがたく受け取ったのであった!

本日になりT氏からメールが届いた。その一部「弾駆動」の試奏結果をご紹介しよう。

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弾駆動早速弾かせていただきました。
コメントなど言える技量はないのですが、本当にすばらしいです。
正直チューブスクリーマーを基本にしているのかと思ってましたがぜんぜん違いました。
JALIの意味も良くわかりました。
GAIN,VOLUME,TONE,JALIの微妙なバランスで、音がどんどん変わっていくので、
これからどんどん弾きこまなければと思っています。
特にブルーモードがゲルマダイオードなのでしょうか、
そんなようなニュアンスがよくわかりました。

歪みすぎることもなく微妙なニュアンスが出る、
田辺さんの製作するエフェクターには、艶あり4558Dは必要なのかなと感じました。
そしてプロの方はそれが聞き分けられるのかなと、思いました。
素 人の勝手な感想ですいません。
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彼もまた「弾駆動」を気に入ってくれたようだ。偶然の縁でこのような結果になったのだが・・・。ユーザーの喜びは私にとっても喜びなのだ。

今年の私は何か少し運が向いてきた気がするなあ・・・。Guitar Player Magazineへの掲載や、ウツからの脱出成功、娘の結婚、アメリカへの旅やアメリカのスーパースターたちとの交流、それらが次々に起こってきた。更に突然の「JRC4558D艷アリ」500個の入手。人生の運は「プラスマイナスゼロ説」というのがある。マイナスが多かった人には、やがて大きなプラスが訪れるという説だ。逆に言えば、プラスが多かった人生には、大きなマイナスも訪れるということだね。

さて・・・今年の私は、過去のマイナスの反動としてプラス方向へ動き出したのか?それとも今年のプラスが、やがて来年あたりに大きなマイナスとなって押し寄せてくるのか?ううむ・・・なかなか深遠な思考だなあ・・・。怖いような・・・怖くないような・・・。でも・・・未来になにが起こるのかは決してわからないんだよね!


本日の結論
これを奇跡とあなたは呼ぶ?

「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



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