添削的小説考


2009年07月11日 実名で登場!


「自分なのに、自分ではない存在」

あなたの人生で、小説家が書いた原稿を添削した経験はあるでしょうか?

もう20数年前の話なのですが、私がテレビコマーシャルのプロデューサーをやっていた頃、一人の広告代理店担当者と出会いました。クリエイティブ・ディレクターと呼ばれる職種の人物です。初めての仕事でかなり意気投合し、自宅が近かったこともあって、かなり頻繁に飲みにいったり食事をしたり、キャンプに行ったりと一緒に遊びました。優秀な人物とは仕事でも遊びでもつきあっているのは楽しいものです。

そんな彼の趣味はキャンプ以外に、ジョギングと映画、それに小説を書くことでした。ジョギングには私はつきあえませんでしたが、小説に関しては面白いことが始まりました。彼は小説の第一稿が上がると、信頼の置ける知り合い数人に読んでもらい、矛盾点や数値的間違い、女性心理から観ての問題点等の意見を聞き、修正を加えるのです。広告代理店のマーケティング的文筆方法と言いますか。新しいタイプの小説作法ですね。私はそのチェックグループの一員でした。

ちなみに、彼はいくつかの賞も受賞しているプロ作家なのです。

この添削作業は、とても面白いものでした。小説家が書いた生原稿を私の解釈で勝手に添削するのですから。それに小説の第一稿は構成に必要な素材を並べただけという解釈もあり、その素材の真贋を判断する行為はクイズを解く気分で遊べたのです。しかも、私が指摘した部分は第二稿では修正が加えられていました。「このブロックはいらないんじゃないですか?」と、ごっそり削ったほうがよいとの編集者的意見までも述べるのです。

さらにそれから2回〜3回のやり取りの後、突然連絡が絶たれます。この後の作業は、最終的にプロの編集者によって吟味され、出版社が納得すれば製本され出版物となるのです。上手く行けば、数ヶ月後「謹呈」の文字とともにサイン入りの完成本が送られてきます。私が指摘した部分がそのように修正されて出版された小説は、どこにも私の名前は存在していません。しかし、明らかに私が関与して完成したのだという感覚は私の中に残っていました。この感覚が密かな楽しみでした。

テレビコマーシャルのプロデュ−サーの仕事もそうですよね。テレビで流れるコマーシャルにスタッフの名前は表示されません。それと全く同じ感覚です。自分が関与したという事実だけが面白いんです。

そんな、添削もこの10年間途絶えていました。彼が小説を書かない限り、私は添削することが出来ません。彼は10年前に勤めていた広告代理店をやめて自分一人で事務所を立ち上げました。従業員は彼一人。独立したとたんに、優秀だった彼のもとへ仕事が押し寄せました。突っ走り続けること10年。62歳になった彼は、そろそろスピードを遅くしたくなったようです。

10年目の区切りとして彼はアメリカ横断一人旅を企てました。クレイハウンドに乗ってLAからNYまで16日間かけてルート66を走るのです。仕事ではさんざん通ったアメリカを、あらためて自由な立場で旅しようというのです。ジャックダニエルとバドワイザーをお供に、彼はその道中を記録し続けました。イーモバイルに加入した際に1円で手に入れたポータブルPCとデジカメがツールです。

彼は日本アカデミーの会員であり、年間に相当な数の映画を見ています。彼が横断するアメリカの各地で思い出す映画の数はおびただしく、記録の多くの部分を映画の話が占めています。彼がこの旅をスタートしたのは、今年の4月23日。LAに着陸した時から始まります。そしてこの16日間のアメリカ横断とシンクロするかのように勃発した「豚インフルエンザ」の拡大。それが旅の進行に微妙に絡み始めます。グレイハウンドで同行の24人の乗客たちの反応は?

もちろん今回も私に第一稿が届きました。はい!重箱の隅を突かせていただきます!とばかりに一気に読みながら「この年号はおかしい」とか「あの映画の主人公のセリフが間違っている」とか「人物名のカタカナ表記がおかしい」とか、思いつくことを片っ端から書き出して即日送りました。そして、それから3週間。早くも「完成稿です!」とデータが昨日届けられました。ほほう!今回は早かったですね〜〜〜!!!

実は、今回の旅を題材にした小説には私が実名で登場しています。LAで彼と一緒に仕事をした、若かりし頃の私の姿が書かれています。しか〜し、これは旅行記を装った小説です。私に関して書かれていることの50%以上がフィクションなのです。フィクションの中では私は自由に動いています。自分なのに、自分ではない存在。これまた面白い感覚です。

いずれ、出版の形になったら再度ご案内いたしましょう!



本日の結論
完成稿にも突っ込みを入れたくなるのは・・・自分でも大笑いです!

「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



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