急逝的幻友人
2008年08月16日 幻の友人との別れ!


志野焼の花瓶だけが残った。

「そしてKOREさんはこう言った」

約1年前、私は一人の人物とネット上で出会った。

始まりははmixiで「Saijo Guiter」のフォーラムがあるかと検索したことだった。フォーラムは存在していなかったが、ユーザーを一人見つけることが出来た。その人物は「Saijo Guiter」を3本所有していた。そしてそれらのギターを愛していた。ハンドルネームはROCKYと名乗っていた。どこにも本名は書いてなかった。

ROCKY宛に「Saijo Guiterがそんなにお気に入りなら、Saijo GuiterのヘビーユーザーであるKOREさんを紹介しましょうか?」とメールを送ったところ、彼はとても驚きそしてすぐに紹介して欲しいと返事があった。KOREさんにその旨を伝えてROCKYに連絡をしてもらったところ、すぐに意気投合したようで、KOREさんが関西に仕事で行く時にはROCKYと会って食事をしていたようだ。

そして、ROCKYはKOREさんにSHIGEMORIのエフェクターを紹介し、やがてKOREさんはSHIGEMORIのアドバイザーとなった。KOREさんとROCKYの関係はさらに濃密になり、頻繁に電話でやり取りしていたようだ。

当時私が開発していた小型ギターアンプ「GAKUYA 1号」の最初のユーザーはROCKYである。気に入ってくれて、その後「GAKUYA 1号 ROCKY仕様」のオーダーがあった。彼のギターに合わせたカラーリングとサウンドの調整を施したものだった。この頃から彼は私を冗談で「日本のダンブル」と呼ぶようになった。

彼は数々の武勇伝を持っていた。日々のmixi日記にはファンが多かった。つきることの無いネタが日々書き連ねてあった。私が取り上げられたことも何度かあった。もちろん「GAKUYA 1号」や「禅駆動」ネタだったのだが。

2008年8月13日夜、ROCKYは急逝した。突然KOREさんから届いた訃報メールに信じられない感が強かった。その日の朝にROCKYはmixiに書き込みをしていたのだから。

約一年間、私はネットの上とメール、そして数回の電話だけでROCKYとやり取りをしていた。ついに本名を本人から聞くことも無かった。素顔も知らないままだった。いつの日か神戸の「まゆみ」で一緒に食事をしたいと思っていたのだが・・・。私の人生の1年間だけに出現して突然消えていったROCKYの存在は、私にとっていったいなんだったのだろう?

昨年から私の回りで親しかった方が何人も亡くなっていった。実際に長い間のおつきあいがあった方々だったが、ROCKYの場合はネットの世界だけで存在していたと言っても過言ではないほどの私との関係だった。訃報が私に届かなければ、今も私のなかでは彼は存在していたはずだ。存在していることと、存在しなくなったことの境目が曖昧模糊として私の前にある。

ネットがもたらした友人は、ネットの中で生き、そしてネットの中で消えていく。なんとも歯がゆい手触り感のない人間関係だろう。「鬱病」の症状の中で「解離性障害」というものがある。これは現実に起きていることに対して現実感が伴わない感覚を持つことを言う。さらに自分自身に対しても自分を客観的に観ている感覚。自分の体なのに、何か他のもののようなフィット感のない感覚。そんな「解離性障害」の感覚にも似たネット上の友人との空気感。

実は先週久々に私はこの「解離性障害」を3日間ほどぶり返していた。車を運転していてもフロントガラス越しに見える風景が映画のワンシーンのように現実感のない風景に感じられた。その感覚になると運転は危ない。このところ車に乗る時は妻に運転をしてもらっているのだが。

最近、私は訃報を聞いても淡々としている。感覚的に「死」を当たり前の事として抵抗無く受け入れているのだ。悲しみを感じるし、弔意がないわけではない。かつて3年ほど前に鬱がひどかった頃、日々「自殺願望」に苦しめられていた私だった。通勤時には、線路に飛び込みたくなる衝動と毎日戦っていた。そんな日々が長く続くと「私はいつ死んでも不思議はない」と思うようになった。やがてその思いは「いつも死が自分の隣に寄り添っている」感覚をもたらすようになった。今、全く自殺願望は消えているが「いつも死が自分の隣に寄り添っている」感覚だけは残っている。

話を戻そう。
ROCKYが幻の存在ではなく確かに実在したという証拠が当家に残されている。一つの花瓶だ。当家がリフォームをした春先に彼から贈られたものだ。陶芸界ではかなり有名な方に作ってもらったものらしい。この花瓶だけが、私にとってのROCKYが実在していた証だ。多くの友人達はROCKYを「いやみのないおせっかい」と評していた。確かにそうだ。

昨日、KOREさんは神戸でのROCKYの葬儀に参列した。その帰り道、20時過ぎにKOREさんは当家に立ち寄ってくれた。食事をしながら様々な話をしたが、ROCKYに何が起こったのかも教えてくれた。そしてKOREさんはこう言った。

「この一年間、ROCKYとかなり濃い時間を過ごしましたよ。
  いいヤツを紹介してくれてありがとうございました」


本日の結論
突然現れて突然消えていった幻の友人に合掌。

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