職人的禅駆動
2007年12月30日 夢が叶ったのか?
 
青貝ストライプ
アバロン レッド

「今年も一年間アクセスしていただいて感謝!」

遠い昔、私は職人になりたかった。そのために上京して来た。カメラマンになりたかったのだ。それが当時の世間では流行の職業だったのだ。だが、実際にはなかなか食えない職業だと分かって、就職する際に少し方向修正してしまって、就いた先はテレビコマーシャルの制作会社だった。

10か月ほど制作助手をやった後に、制作進行として1本となり、しばらくは忙しい日々が続いていた。そんな中で結婚した直後に「やっぱり俺は職人になりたい!」との思いが強くなっていた。この時点で考えていた職業はなんと「ギタービルダー」だった。真剣に「会社を辞めてアメリカの学校に行こう!」と考えていたのだが・・・。諸事情によりあきらめる事となった・・・。

それから3年後、会社からプロデューサーの名刺を渡された。時代に巻き込まれプロデューサーをやっているうちに20年が過ぎた。その間にもワープロから始まってMacへの移行と自力で勉強は続けていた。会社全体のOA化にも手を出し、かなりの改革をやっていたなあ。やがて、コマーシャルのプロデューサーにも飽きて来た頃、時代の波はデジタルになって来た。

そこで、会社内でデジタル系のプロデューサーへと転身した。しか〜し!まだ業界全体がデジタル化の波について来ていなかった。研究ばかりで実際の仕事に至らないケースがほとんどだった。この時期に勉強した事は今でもかなり身に付いているなあ。

さらに10年が経ち、2005年3月から私は「鬱病」の世界をさまよう事になった。1年間はなんとか仕事を続けてみたが、病状は悪化するばかりだった。結果として日々「自殺願望」に襲われるディープな病状となった。こうなると仕事に出ていられなくなる。仕事を休みがちになり、ついに治療に専念するため2006年3月から13か月間休職する事となった。何も出来ず、ただ毎日をボ〜〜〜ッと眺めるだけだった。長い眠りについた状態の私だった。人生初の冬眠状態。

やがて2007年になり、新しい会社から仕事を手伝ってほしいと要望があった。鬱真っ最中の私に何が出来るのか?仕事をしないと生活出来なくなるので「一日おきの出社でよければ、とりあえず1年間」という条件で今年の4月から治療の傍ら銀座方面で働く事にした。同時に、週に4日は休みなのだから、それを無為に過ごすのはもったいないと考えるようになった。

何か軽い目標を持って、毎日の出勤電車の中で勉強しようと考えた。「そうだ!チューブアンプを作ろう!会社は秋葉原にも近いし!」そう思いついて初心者用の専門書を買ってみた。結果として読み終わってみれば「なんだかわからんな〜〜〜!!!」であった。そりゃあそうだ。まったく電子工作の知識はないのだからね。ギターのピックアップ交換や、コンデンサ交換をやった事くらいしかないのだ。

そこで、いきなり真空管は難しいと判断して「スモーキーアンプ」のクローンを作ってみる事にした。1週間でなんとか仕上げる事が出来た。かなり小さな回路なので、いろんなものに仕込めると思い、しばしバリエーション製作で遊んでみた。だが、どうも充実感が得られない。もう少しちゃんと使えるものにしたいと考え、プロギタリスト是永氏に作ったばかりの小さなキャンディー缶アンプを持っていき、意見を聞いてみた。

そこで見つかったのが次の目標である!「プロが楽屋で使える木キャビ超小型アンプ」的確な木製キャビネットをどうやって手に入れるのかが難しかったのだが、ダイソーで見つけた「ポケットティッシュケース」がヒットした!これを手に入れ実製作に入った。出来上がったものが「GAKUYA 1号」である。これが好評でしばし製作に没頭した。デザインバリエーションも多く生まれた。

「GAKUYA 1号」を20個ほど作った頃、突如としてオーバードライブ「Zendrive」の存在を知る事になった。やがて是永氏が手に入れた「Zendrive」を見て、ふと「これもクローンは作れないのか?」と新たなる願望が湧いて来たのだった。WEBに発表されている怪しげな回路図を何種類か集めてみた。全くエフェクターなんぞ作った事がないのに無茶な発想だが、やってやれない事はないだろう!と材料を集めた。回路に手をつけてから2週間後、ついにプロトタイプは出来上がり「禅駆動」と是永氏に命名してもらった。

さっそく是永氏にサウンドチェックしてもらうと、7項目もの改良点を指摘された。例えば、ハイが不足!ジャリ感も不足!歪みは減少させたい!等が要求されたのだが・・・。基礎知識がない私がどうやって改善すれば良いのだ?と一瞬悩んだが、そうなると意地であった。帰宅後すぐに作業を始め、徹夜で回路の修正に励んだ。明け方にはなんとか「ジャリ感が出て来たぞ!これって・・・いけるサウンドでは?」というところまでたどり着いた。自分で鳴らして気持ちよいのだから、他の人も気持ちよいはずだ!との判断である!この時点でサウンドは「Zendrive」とは全く違っていた・・・。

たぶん、開発スタートの段階で私に電子工学の知識が豊富にあったならば、このようなサウンドは生まれなかったと思う。後から知ったのだが、修正の段階で非常識的なパーツ配置をしていたのだ。つまり、論理的に開発された「禅駆動」ではなく、あくまでも耳でサウンドの差を聞き分けながら試行錯誤して生まれた回路なのだ!

翌日、是永氏へ再度サウンドチェックをお願いした。出て来た評価は「これは良い!合格!」かなり気に入ってもらえたようだった。そこから徐々に是永氏の口コミで「禅駆動」がプロギタリストの手に渡り始めた。この時まではまだ是永氏に頼まれてその友人達に数台だけ作るつもりだったのだが・・・。


禅駆動 プロトタイプ

12月に入り「禅駆動」の噂を聞きつけてエフェクターマニアたちが動き始めた。直接オーダーが入るようになった。実は、量産している間にも技術のチェックを行い、改善出来る部分は積極的に改善し続けていたのだ。基板もユニーバーサルからプリント基板へと移行し、プリント基板もパターンの変更を3回行った。配線材の使い分けや、ハンダのやり方等も進歩していると感じる。結果として、1号機と20号機では確実に20号機の方が進歩しているのである!これは手作りのエフェクターとしては仕方がない結果だね!

ただし、技術的進歩とサウンドの善し悪しは又別の問題である。「水清ければ不魚住」の言葉通り、ギターのサウンドに取って「不純物」は悪ではない。オーバードライブだって音本来の形から見れば「歪み」だし、相変わらずギターアンプはチューブが喜ばれているしね。

このところ「禅駆動」のオーダーが日々続いているが、とても気分よく作業が続けられている。プレッシャーも以前ほど感じなくなっていて「鬱感」がすっかり抜けているのだ!卓上ボール盤でアルミケースに穴を開けている時などは快感があり、ほとんど恍惚状態の私だ。「ユーザーに喜ばれる喜び!」を感じている今、私は長い時間をかけてようやくたどり着いた、あこがれの「職人」の世界を味わっているのだ!

いつまで続くかは知る由もないが、材料が手に入る間はまだしばらくは作り続けてみよう!最近になり、中国在住の方からオーダーがあった。ロンドン在住のプロギタリストからもオーダーが来た。この先どうなっていくのだろうか?

てなことで、今年も一年間アクセスしていただいて感謝!これにて年内の更新は完了だ!


本日の結論
こういう誉められ方もしている禅駆動だよ!

「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



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