六弦的頭補修
2004年08月12日 いったいどれほどの費用なのか?
 



「補修跡の見え方なんぞは」

8月8日にぶっ倒してヘッドを破壊してしまった私の愛器「Gibson ES-175」は、悲し気な姿をハードケースの中に横たえ静かに修理の日が来るのをしばし待っていた。今までであれば、私はこの機会を逃さず「ヘッドの自力再生リペア」に取り組んだかも知れない。経験値を増やすために、その価値は十分ある作業だが・・・この部分は弦のテンションが思いっきりかかる。そのテンションは、ほぼ大人の体重1人分。素人の技術では、時間と共にやがて再び崩壊の時がやってくる気がする。もっと安物のギターなら自分でやっても良かったが、今回は経験値を増やすよりも安全策を取ることにした。つまりプロの職人に修理依頼をすると言うことだ。

さて、ヘッドが割れてしまった場合の修理費用はどれほど掛かるのだろうか?皆様に情報を要求するだけではつまらないので、私自身でも探してみた。すると面白いショップが見つかったのだ!私が見つけたショップは仮にC社としておこう。後になって、登録会員から寄せられた情報の中にもあったショップである。

ネックやヘッドのリペアに関し情報を集めようと、あたふたとWEBを検索しまくっていた時のことだった。C社のホームページに出くわしたのだが、そこには今までC社が受注し作業したリペアの状況が、画像入りで丁寧に解説してあったのだ。私の「Gibson ES-175」の場合、Gibsonにありがちなヘッドの割れ方なのだが、単にヘッドの割れと言っても破損したギターの症状にはそれぞれ個体差がある。C社の画像入りリペア解説には「Gibson ES-175」も存在していたのだ。非常に参考になる!とんでもない程の破壊状況になっても何とかしてくれるショップのようだ。最近はメールで対応してもらえるショップが多いので、破壊部分の画像を添付して送ってみた。

C社は完全に「弦楽器修理専門店」である。オリジナルギターを作って売る気はほとんど無いようだ。で、ホームページの文脈をよ〜く観察していると、ある疑問が沸き上がって来た。このショップの扱っている修理は、ここが直接受ける修理だけでは無い。様々なプロショップから持ち込まれているようだ。そうなると、どう言うことだ?他のプロショップではC社に下請けに出して、自社でやったように見せている可能性があるのか?

私はその商売のやり方を否定しているのでは無い。そうなると、修理に出すショップと実際に作業するショップが違う可能性が出てくるので、ギター修理職人との直接対話が出来なくなるのが寂しいと感じたのだ。であれば、直接C社の職人にあって発注した方が安心できるし価格も安くなるのでは・・・と考えるが常識的判断だろう?

だが・・・ひとつ気になることがC社のホームページに書かれていた。「新規の一般客の依頼は制限している」との文言があったのだ。これは何を意味しているのか?さらに読んで行くと「修理の後に料金を値切るやつがいる」とか「いつまでも品物代を払わないやつがいる」とかマナー違反の一般客とトラブルが頻発したようなのだ。この店は職人しかいないので、トラブルの対処をしている暇は無い。そこで一般客の制限を始めたようだ。

しかし!私に愛想笑いは必要無い。このような職人気質の店にこそ是非修理をしてもらいたいのだ!そこで「初めてだけど、修理を引受てもらえますか?」と打診のメールを送っておいた。さあて、どのような返事が来るのだろうか?数時間後メールが返って来た。おっ!修理を引き受けるとな!気になる価格は・・・。では、私が問い合わせした3社の見積もりを並記して提示してみよう!

愛知のA社
見積もり1   ネック接着および割れ目の部分塗装:42,000-
見積もり2   ネック接着およびネック全体を再塗装:63,000-

見積り以外にも懇切ていねいな助言があり、メールだけの対応としては完璧であった。ただし、ギターを観てから正確な見積もりと作業内容が決定する。ギターを宅配便で送らなくてはならないので、その部分の往復の送料も必要となる。
原宿のB社
見積もり    ヘッド接着および整形再塗装:80,000-以上

電話のみの対応。内容的には安心できるようだが、価格が・・・。
詳しくは、やはり現物をチェックしてから決まる。
上野のC社
見積もり    ヘッド接着および補強、再塗装:52,500-

修理職人がたった2人で経営している。
この店に営業さんはいないので客商売の対応は苦手らしい。
ヘッド折れはさんざんやって来た修理内容なので価格はこれで決定。

微妙に上中並みと値段が別れているのが解る。だた、B社はそのWEBでこう宣言していた「修理跡がまったく解らないように仕上げる」本当だろうか?実は原宿のB社でネック折れを修理した人物が登録会員の中にいる。見せてもらったことがあるが、確かにまったく修理の箇所が気にならなかった。だが、あのネックは塗りつぶしだったからなあ・・・。私のES-175は、ほぼナチュラルに近い薄いブラウンだ。木目が見えているので修理すればどうやったってその跡は見えるはずだが・・・。木目も手書きで加えるのだろうか?

今後のES-175の運命を考えた場合、ヘッド修理するとなると「転売」は難しくなる。修理によって強度は増すようだが、だれしも一度傷付いたギターを譲ってくれとは言わないだろうし。そうなると、この先私自身がずっとつきあって行くことになるので、修理内容としても自分自身が納得できて音がちゃんと出れば、補修跡の見え方なんぞはどうだって良いことになる。

さらに別の各社に見積もりを請求するのもありだが、ほぼ価格帯はつかめたのでこの3社の中から発注先を絞ってみよう。

私の勤務先から一番近いのはB社だ。多くの登録会員が支持している有名ショップである。確かにプロにも信頼があるようだ。その分だけ値段も高い。実は、2年前に一度このショップを覗きに行ったことがある。フレットワークに特に定評があるようだと噂を聞いたことがあった。しかし、ショップに発注しても私と打ち合わせした方が作業するとは限らない。今回はやはり「職人との対話」部分にこだわってみることにしようか。

上野方面にあるC社をターゲットにして、再度問い合わせのメールを送った。結果、8月11日13時に持ち込むことで話がついた。

8月11日、昼休みを利用してC社に向かった。上野駅での乗り換えが日比谷線まで結構な距離があり、近場の駅からショップまで歩きだし、クソ暑い真っ昼間にハードケースをぶら下げて歩くと汗だらだら〜!ショップの前に辿り着くと半分シャッターがしまったまま・・・。入り口にあったはり紙には「電話連絡なくこられた方は受け付けません」とあった。飛び込みでは修理を受け付けないようだ。恐る恐るドアを開け覗いてみると薄暗く狭い店構えだ。店内に入るとこれまた本当に狭い!ほぼ作業場だけのスペースである。若い職人2人が作業中だった。そのうちの1人が対応をしてくれた。

まず職人は素早く弦を切り、ES-175のチェックを始めた。

職人の話によると、ヘッドが折れた場合にはすぐに弦を外してしまった方が良いようだ。特に私のケースではヘッドのつき板が割れていなかったので、弦を外しておかないとつき板にそり癖がついてしまい、接着が難しくなるそうだ。今回は時間的にギリギリでセーフだったようだが。皆様もヘッドにヒビが入ったり割れたりしたら、すぐに弦を外してとっとと修理に出すようにね!

次に、リペア職人から修理行程の説明が始まった。

1 割れた部分に欠損がなかったので、そのまま接着剤を流し込み一度元の形に戻す。
2 接着するだけでは強度が足りないので、補強材を入れるために割れ目の部分を含んだ一部分を切り取る。
3 切り取った部分と同じ形に整形した補強材のマホガニーを埋め込む。
4 補強材を削り、元の形に近付ける。しかし、強度確保の為オリジナルよりは少し厚めに仕上げる。
  (バイオリンの補修方法からの応用で、強度が一番確保できるテクニックのようだ)

   ←C社のWEBから拝借した画像

5 オリジナルの色に合わせた塗料で色付け塗装(ただし、塗りつぶしとなる)
6 水研ぎ、ポリッシュし、弦を張り作業完了。

3週間後に完成だと言う。おおよそ今月一杯ってことか。弾くためのギターは他にも持っているので、「Gibson ES-175」が3週間手元にないことで何も困らないが。ところで、このような修理が終わると当然ながらヘッドとネックの微妙な重量バランスが変化する。今回は補強材の厚みが増えるので明らかにヘッド重量が増すはずだ。そうなると理屈では周波数特性が変化し、出てくるサウンドにも影響するはずだ。さて、どのように変化するのだろうか?

ちなみに、啓示倉庫への書き込みによると修理後は「骨折して強くなり鳴るようになった」などと感じる方もいらっしゃるようで、実に愉しみなES-175の退院日なのである。




本日の結論
持ち込みだけでなく、実は引き取りの時も汗ダラダラになるんだろうな〜!

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