読了的虚人達
2004年07月13日 空白のページに何を理解すれば・・・!
 



「文章が奇妙で読み辛く」

本は読まなければただの紙束であるが読み始めたからと言って物理的に紙束でなくなるわけではないが単なる紙束でなくなることも精神的には事実である。私は青年の頃から筒井康隆の本を読み続けていたが毎日読んでいたわけではなく筒井康隆の小説が好きだったのか筒井康隆本人を好きだったのかは会ったことがないので良く解らない。1970年代に読んでいたショート・SFジャンルの本は腹を抱えて笑いつつ読みあさった。当時筒井康隆が編集長だった「面白半分」という月刊誌に投稿したことさえもある私だ。そして長年気になっていながら読んでいなかった「残像に口紅を」を5年程前に読了した。実は現時点で私にとって「残像に口紅を」が筒井康隆の中で一番好きな本なのだが明日になれば一番好きな本でなくなるかも知れないし好きなままでいるかも知れない。「残像に口紅を」は世界から次々に言葉が消えて行く設定で言葉と同時に事物も消えて行く状態はかなり実験小説の度合いが深かったがその実験結果を知りたくて読み進んだのだ。実験が成功したのかしなかったのかは読了した者のみが知る工夫が施されている本であるがそれを知ったところで人生に何か影響があるかと聞かれればあるかも知れないしないかも知れないと答えざるを得ない状況なのだ。そんな筒井康隆の本でずっと気になり続けながらも読んでいなかった本に「虚人たち」がある。昭和56年に出版されたのだから西暦にすれば1981年になるはずだが今まで読んでいなかったのだから何年に発行されようとあまり関係なかったのかと思わざるをえない。

「虚人たち」
前人未到の実験的手法で奏でる
現代の虚構と悪夢。泉鏡花賞受賞


ストーリーは存在するが実験的手法なので一般的なストーリーとは大きく違っているように思うが思わない読者もいるかも知れないので断定は出来ないし断定してはならない気もする。フィクションが存在するためにはその世界観に対する暗黙の了解がある。それら統べてを放棄し続け描写し続けることで「虚人たち」は成立しているかも知れないししていないかもしれない。文字で紙面をうめる行為が時間の流れを生み出しそれによって読書現実時間とストーリー仮想時間のシンクロを図っているとも思える。この本の書き出しを引用してみよう。

今のところ何でもない彼は何もしていない。何もしていないという言いまわしを除いてなにもしていない。

どうだろうか?「虚人たち」の恐ろしさが少し見えてきただろうか?それとも恐ろしくないとあなたは断言できるのだろうか?日常性と無意識の虚構的約束事をことごとく拒否し主人公の動き思考風景かかわる人々全てを叙述し続けることで主人公は主人公として存在し続けるし存在できなくもなる。小説の書き出し部分ではまだ筆者が主人公に関する事実関係を何も記述していないのでなにもしていない彼としてしか存在できないのだ。風景の見えにくい小説である。小説における風景は文字であるし文字が風景だともいえるかもしれない。行間もなく改行もほとんどなく列ねられた文字列が紙面をびっしり埋めている。「虚人たち」のなかで驚くべき実験部分が突然出現する。94ページから108ページにかけて表現されているものはなにかを目にすれば「虚人たち」の持つ虚構の常識への挑戦が確実に理解できるだろうが理解できるとは限らない。ちなみに「虚人たち」における文体的特徴はこの本の本文の中にいちども「読点」が打たれていないことだ。本日の文章が奇妙で読み辛く読点がひとつも存在しないのは「虚人たち」の文体を真似ているからに過ぎないし必ずしも似ていないのかも知れない。こんな調子の文章を246ページも読み通すのは実験小説に参加するためであり小説として楽しむためではないと言い切れるのだろうか?ちなみに94ページから108ページにかけての特異的事実関係は「文字が印刷されていない真っ白のページ」の存在であるがこれはミスプリではなく著者が意図したことである。通常の小説形式であれば「彼は15分だけ気を失った」と書けば済むところを「虚人たち」では主人公の意識をメインとして展開しているので主人公が意識を失っている時間として表現されている「文字が印刷されていないページ」を何枚もめくることで物理的な15分の時間経過を読者に体感させるのだ。フリージャズのような小説形式である!読み通すのにかなり覚悟を必要とする小説なので素人は手を出さない方が無難か?読みたい希望者がいれば進呈するが進呈しなくてもよいような気もするし本当に欲しければ啓示倉庫に書き込む事が必然であると登録会員は知っているはずだから私は心配していない。


本日の結論
こんな文体で書き続けるのは苦痛だ〜!

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「独断倉庫」に関しての御意見は「啓示倉庫」へ書き込んで下さいな。



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